彩4
元原先生は、新任の体育教師だった。
得意スポーツは水泳。
高校時代から鍛えた逞しい体は、僕にはクロアリにしか見えなかったが。
勿論のこと運動神経はなかなかのもので、若さを売りに、毎日頑張っていた。
生徒からの人望は、新任にしては大きい方で、特に、女子(若い方)から人気だった。
但、例外はいたが。
といっても女子で元原先生を好まない生徒は一人しかいない。
それが、彩だった。
彩はあまり動くことが好きではなかった。体育はいつも見学、または欠席しがちで、よく保健室の先生とお喋りを楽しんでいた。
元原先生が、無理矢理にでも保健室から連れ出そうとすると、彩は(どこにそんな力が?)渾身の一撃を先生に浴びせ、学校中を逃げ回る。
他の先生方は「またか」というふうに、追いかけっこを眺めている。
時折、暇になったら二人を応援する先生もいたほどだ。
全く。
そんなこんなで
元原先生と彩は仲が悪かった。
最悪なほどに。
そんなに仲が悪かった二人だが、あの時の事件から、何かが確実に変わった、と感じるように思える。
僕は。
暑い夏日だった。
その日は、朝から体育という最悪な日程で、(僕は長距離を選択していた)機嫌が悪いまま、のろのろと体操着に着替えて、グラウンドに出た。
真夏。
暑い所が苦手な僕は、早くもバテそうになりながらも一所懸命に走った。
何時もなら早く来る元原先生は、まだ来てなかった。