彩2
彩は、無表情に僕を見つめてから、唐突に笑い出した。
それが、面白いと言わんばかりに。
この質問をしたせいで、彼女が怒ったのだ、と。
そう思っていた僕は、少し驚いた。
悪戯を見つかった子供?
いや、彩の場合、
薬物中毒に侵された少女のよう。
あぁ、見てたの。
笑ったままの顔で、彩は歌うように呟いた。
その笑う様子を見た、クラスメートの一人が小さく、短い悲鳴を発した。
彼女は美しくもあり、見様によっては些か不気味にも見える。
僕は、前者なのだが、周りの皆は後者のようだ。
現に、皆怯えているかのように僕には見える。
5時間目の真っ只中。
先生に見つからないように僕は極力小さな声で喋っていた。
それにも関わらず、僕の席の対角線沿いー一番入口に近く、且つ前側の席ーまで、僕等の(彼女との)会話は筒抜けだった。
その証拠に、現にその席に座る生徒は、こちらを横目で見つめている。
淀んだ眼で、じっとりと。
私、何をしていたと思う?
彼女は今だ笑ったままだ。
ワタシ、ナニヲシテイタトオモウ?
逆に質問をされて、答に詰まる。
何をしていた、か。
正直、彼女の行動に、予測は役立たない。
その理由?
それは、今までの授業であった様子を見れば、納得出来るんじゃないかな、と僕は思う。
入学当初。
担任を追及しすぎて不登校にさせる。
休み時間。
笑いながら美術作品(石膏)を壊していた(らしい)。
そして日常。
授業中よくいなくなる。
まぁ大体この三つでお分かりになるだろう。
彼女は、入学して僅か二ヶ月で、問題児、というレッテルを貼られているのだ。
教師も、クラスメートも、皆彼女を恐れている。
恐れるはず、なのに。
何故僕は恐れないのだろう。
(さっきの、彼女の後をつけた行為については、
好奇心の方が恐怖に勝っていたからだ。
念のため。)
さて、本題に戻ろうか。
悩んでも答が出ないなら、適当に勘に頼る他は無い。
自殺、かな。
自嘲気味に笑いながらそういうと、
彼女はくすくすと笑いながら、
あながち間違いではないわね。
と言った。
あの場所はオススメ出来ないな、と言うと、
あら、何故?と返答された。