彩
彼女は狂ったように美しかった。
それ故、皆から嫉まれたのだろう。
僕がこの中学校に転校して初めて喋ったのが、彩、という名の彼女だった。
彼女は伏し目がちに僕を見つめ、いつも何かを待っているような顔をしていた。それが答なのか、返答なのかは、
僕には解らなかったが。
あまり活動的では無かった彼女は、僕から見て、友人と呼べる人がいなかったのだと思う。
いつもお昼を食べ終わると彼女は徐に席をたち、教室から出ていくのだ。
他の女子達は、そんな彼女を見て、ひっそりと笑い合い、そしてこそこそと彼女について話し合うのだ。
何処に行くのだろう、と不思議に思った僕と、数名のクラスメートは、ある日こっそり彼女の後をつけてみた。
夢見がちな足取りで、ふらふらと、吸い込まれるように歩いていく彼女。
まるで、何かに引き寄せられているかのように歩く様は、罠にかかる直前の揚羽蝶のようにも思えた。
彼女が着いた先は、屋上だった。
本来なら鍵が掛かっているはずの扉を、躊躇いも無く開けて進んでいく彼女を見て、
僕を除いたクラスメート達は気味悪がった。
あいつは、取り憑かれているんじゃないか、と。
僕は、何故皆が彼女を気味悪がるか、解らなかった。もっと彼女を見ていたかったが、授業が始まるのでその場は教室に戻った。
5時間目が始まる直前に、彼女は戻ってきた。
いつものように、伏し目がちに。
覚束ない足取りで。
席についたのを見計らって、僕は思い切って
君は、屋上で何をしてるんだ?
と聞いてみた。
彼女は、ゆっくりと僕の方に顔を向けた。
その瞬間、僕は質問をしたことを後悔した。