欺瞞と契約
界王拳カッコいいですよね。
目がチカチカするハートの柄が壁一面に、こじゃれた家具がちらほら。鬱陶しいほど甘ったるい匂いが充満している。ピンクが息苦しいとても悪魔とは思えない部屋だった。
「どうだ? 意識が定着してきたお陰で少し凝ってみたんだ」
何故か自慢げな砂嵐。
「いいんじゃないか? センス抜群だな、悪魔的で」
ダウト、と言わんばかりに指を指して
「誉めてないな。お前これっぽっちも良いと思ってないじゃないか、ええ?」
コイツこんなに面倒くさかったか?
「今日はこんなくだらない事を話にきたんじゃない、さっさと本題に入ろうぜ」
ザザザザと砂嵐が荒くなる、相当ご立腹らしい。
「くだらないだと? 俺最も大切な事だ。俺様は何よりもセンスを笑われる事が嫌いなんだ、お前との契約はなしだ」
「子供みたいな事言ってんなよ。契約しなきゃどのみち死ぬんだぞ」
砂嵐ときたらそっぽ向いてむくれてやがる。これからを思うとため息が漏れる。
「分かった分かった。契約内容を明確にしよう」
少しは効果があるか? チラチラとこちらを見ている、食いついてるぞ。
「今回は力を貸してほしい。お前の術魔の開示、そしてその支配権の一部譲渡。開示と譲渡、お前の恐れる師匠の悪魔よりも強い結びつきになる筈だ」
月法だけでは限界がある。この鳥籠から逃げ出す為には今の実力では足りない。
「釣り合わんな」
砂嵐は静かに席につく。促されるままに向かい合う。
「お前は契約を分かっていない。結びつき云々はいい、名前を縛る許可は出した。」
「じゃあ……」
本能がブレーキを掛ける、理解するには十分な圧。
「だがお前には誠意が無い、自身の名前に濁りのある者とは契約は結べない。そう言っているのだ煤貝誠」
雷に撃たれたような気がした。俺はコイツが納得するだろうと高を括っていた。名前は己を厳しく縛る。そのあり方に反する者であれば、人の理から外れて行く。
「悪かった、俺はバカだからそこまで気が付かなかった。本当にすまない」
策が通じなかっただけだ。今機嫌を損なうのはまずい。相手は悪魔だ、組み立て直せ。
額に血がにじむ、必死の土下座だった。
「謝罪とは相手の機嫌を伺うものではない、散れ愚図が」
パチンと指の音が響く。痛みは無く意識が灰と化した。
「今戻ったよドクター」
痩せこけた男はにこやかに呼びかける。
「お前もそろそろ補給が必要だろう、代わりを連れてきたんだ」
男の後ろから覆面の長身が現れる。ふらふらと定まらず歩く長身を見上げ睨みを効かせる。
「そう睨んでやるなよ。ドクター、君は人間に慣れすぎた。補給は何時でも止められる、忘れない事だ」
それは困る、忠実に生きなければ。私は主の声のままに、仰せのままに生きるのだ。彼の近くに寄ると鮮明だ。五感がしっかりとしていて透き通ったようだ。
「では頼んだよノータリン」
覆面はこくりと無機質な会釈。扉は軋む音を立てて閉まった。
生井澄広です。
名前には希望が込められています。
澄んだ広い心を持ちたいものです。