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後半戦は気楽です。

王妃様主催のお茶会から10日ほどして、王宮から招待状が届いた。お父様は中を見る前から、もう王太子殿下の婚約者に決まったかのように喜んでいる。気が早過ぎます。


かくいう私も、上級侍女が決まったも同然なので、ホッとしたのが本心だ。お母様もにこにこしているし、使用人達もとても喜んでくれている。

クリストファーは「姉様が殿下の目に止まるのは…」とかなんとかいっていた。





「さすがはお嬢様でございます。次のダンスパーティーでは、今までよりも更に素晴らしいドレスをご用意いたしますので、楽しみになさっていてください。」





相変わらず全く気配を消したままだったセドリックが突然声をかけてきた。いつからそこにいたんだろう。なんだかもう執事のスキルとかではなく、隠密とかではないだろうか。




「でも、そんなに高級なドレスを何着も作るのは大変でしょう?お金をかけてもしょうがないし、もう上級侍女にはなれるからいいのよ?王太子殿下の婚約者になりたいわけではないもの。」



「お嬢様、ダンスパーティーは戦場でございますよ!お嬢様の美しさを最大限に引き出すためのドレスは私たちにお任せください!」


私の紅茶のお代わりを淹れてくれたライラが力強く言った。いや、もうそんなにめかしこまなくてもいいのだけど…とはライラの気迫に押されて口から出てこなかった。


「そうでございますよ。お嬢様は些細なことはお気になさらず、王宮でのダンスパーティーを楽しんでいらしてください。用意はこちらでできておりますから。」



セドリックにも口添えされ、パーティーの装いは2人に任せることにした。











ダンスパーティー当日。

本当にどうやって用意したのかわからないが、2人の努力によって、私は今までに着たことのないような豪奢なドレスを着ていた。


形はハイネックのドレスだが、首元と腕はレースで覆われて程よく肌を隠している。全体は新緑の葉の色のようで、スカート部分にはきらめく糸でふんだんに刺繍がされているし、胸元には宝石が縫い付けられている。

髪は大人っぽくアップにしてサイドを垂らし、小さなエメラルドのヘアピンをさして光を反射している。



この装いの値段を考えるに恐ろしい…。

いったいどれくらいかかるというのだろうか。しかし、私を見て満足げな侍女達を見ていると無粋なことも言えず、そのまま迎えの馬車に乗り込んだ。








ダンスパーティーは王宮のダンスホールで行われた。令嬢は10人ほどで、エリザベート様はすでに来ていた。オリヴィア様は選考に漏れたらしい。とても残念。他にも、殿下の側近や宰相閣下をはじめ、国内の有力貴族の跡取りらしき令息が来ていて、王太子殿下の婚約者の他の縁も生まれそうだ。



「サンドラ様、御機嫌よう。今日はとても綺麗な色のお召し物ですわね。刺繍の糸も素敵なお色で、とてもお似合いですわ。」


「ありがとうございます。エリザベート様も、まるで妖精のような可憐さですわ。」






エリザベートは髪に合わせた淡い黄色のドレスできていた。高価なレースをふんだんに使い、上品なドレスのスカート部分は大きくふんわりと開いている。さすが侯爵家。

エリザベート様の可憐な雰囲気にとてもよく似合っている。




殿下の入場が告げられると、会場は水を打ったように静まり返った。

パーティーの開会が宣言され、令嬢は1人ずつ殿下と踊るようだ。礼儀作法に関しては家庭教師に太鼓判を押されてはいたが、体を動かすことが苦手なので、ダンスはあまり得意ではない。できれば避けたいところだが、殿下とのダンスは断れないので、他の殿方と踊るのは遠慮したい。




そんなこんなでなんとか殿下とのダンスを終えたが、正直あまりにも必死で、ろくに話はできなかった。殿下にも必死さが伝わったのか、あまり話しかけられなかった。転ばなくてよかった。


殿下と踊っていない令嬢たちは、会場のあちらこちらで参加者の令嬢や令息と歓談したり、ダンスや食事を楽しんだりしている。


「アレクサンドラ様。こちらでお話いたしましょう。」


顔見知りになった令嬢に誘われ、数人のメンバーの中で歓談していると、一通り踊り終わったらしい王太子殿下もあちらこちらのグループで歓談しているようだ。そのうち、王太子殿下はエリザベート様のグループに行き、エリザベート様をエスコートして、ダンスの輪に入っていった。



一部の令嬢から悲鳴のようなため息のような声が漏れた。



頬を染め、楽しそうにダンスをしている2人を見て、私もとても嬉しい気持ちになった。これは婚約者は決まったようだ。お相手がお友達なのはとても嬉しいと思う。


ひとしきり歓談したのち、王太子殿下の婚約者の発表になった。殿下は私たちの輪に近づき真っ直ぐにこちらを見た。












「私の婚約者として、エリザベート嬢を指名したい。」




私は思わず隣にいたエリザベート様の方を見た。それはもうかわいそうなくらいに顔を赤くして王太子殿下を見ている。



「エリザベート様、おめでとうございます。」




固まっているエリザベート様にこそりと声をかけると、我に返ったエリザベート様がとても幸せそうな笑顔で殿下にエスコートされて行った。



2人が出ていくと、なんとなくお開きな感じになった。そろそろ帰ろうかと思い、出口から出ようとしたところで



「アレクサンドラ・アルヴィ様ですか?こちらの客室にお願いいたします。」



騎士に声を掛けられ、別室に案内された。もう就職についての説明があるのだろうか?



部屋はさすが王宮というか、一部屋だが、家具や絨毯など、一目で上質と分かるものが置いてある。柔らかいソファに腰掛け、侍女が淹れてくれた紅茶をいただきながら待つように言われた。



「もうしばらくお待ちください。」




侍女が出て行き、一人でしばらく待っていると、ドアがノックされた。




「はい。」




と答えると、宰相閣下が部屋に入ってきた。

宰相閣下自ら説明?






慌てて立ち上がり、淑女の礼をとったが、宰相閣下に止められた。




「お待たせして申し訳ありませんでした。アレクサンドラ嬢。」



相変わらず美しい笑顔を向けられ、見とれてしまいそうになる。美しいと得だとつくづく思う。




「いえ。こちらこそ、閣下からわざわざお越しいただきありがとうございます。侍女の仕事のお話でございましょうか?」




落ち着かない気分になり、早々にこちらから話題を振ってしまった。話を急ぐようで失礼だったかしらと不安になったが、目が合った宰相閣下はより笑みを深めた。目が潰れそう。





「閣下などと言わず、どうかディミトリアスと。」





「そんな。わたくしのような者に恐れ多いことでございます。」



なぜか名前呼びをお願いされた。小首を傾げるなど、あざとい仕草も、この人がやるとなぜか絵になる。そしてこちらに近づいてくる。

後ろに下がって逃げるわけにもいかず、手が届くような距離まで近づかれた。




「侍女の仕事よりもっといい仕事を紹介させていただこうと思いまして。ご興味がおありでしょう?」





もっといい仕事?やばいお仕事ってやつかしら。

頭の中で警告音がする。そして宰相閣下背が高い。女性の平均くらいの私よりも頭1つ分以上大きいから、男性の平均よりだいぶ高そうだ。



「どのようなお仕事でしょうか。」



一応聞いてみよう。変な仕事なら断ろう。そう思って見上げると、不意に両手を取られた。そのまま胸の前に手を持って来られる。




「か、閣下?あの、手を…」



その先が続かなかった。なんと言っていいかわからなかった。異性にこんなことをされたのは初めてだった。



「どうかディミトリアスと。」



先ほどと同じセリフをもう一度、熱っぽく繰り返され、指先にキスを1つ落とされた。頭の中は大パニックで、どうしたらいいかわからず、思わずまじまじと彼の顔を見てしまった。

真っ直ぐにこちらを見ている彼と目が合った。その新緑の瞳には見たことのない色がこめられていた。慌てて目を逸らし、指先を見た。



指先に唇を落とされたたまま、もう一度乞われる。






「あ、あの、ディミトリアス…様。なぜ…手を」



しどろもどろになりながら、なんとか言葉を紡ぐ。名前を呼んだ私に満足したように微笑み、閣下はやっと手から唇を離してくれた。それでも手はまだ離してもらえない。自分の心臓がうるさくてしょうがない。





「仕事のことでしたね。ぜひあなたにお願いしたい仕事があるのですよ。」



「どんな…?」




なんとなく悪い笑顔になった気がする。




「この国の宰相夫人です。爵位としては公爵ですね。」






この人は何を言っているのか。耳に入った言葉が全く頭に入って来ない。かつてないほどに混乱している、とどこか冷静な部分で考えた。






「私の妻に、なりませんか?」





夢のように美しい顔が、すぐ近くまで迫ってきた。お互いの顔がギリギリ認識できるくらいの距離まで近づき、上目遣いに窺ってくる。あざとい。この人は自分の顔と表情の効果をとてもよくわかっているに違いない!

しかし、そんなことを考えていても、私の体は新緑の瞳に縫い付けられたかのように、全く動かない。


許容量を超え過ぎて、目が勝手に潤んでくる。



「そんな可愛い目をしないで。我慢できなくなってしまうからね。」





我慢?我慢て何??妻っていった??砕けた口調になったな、とちらりと思ったけれど、それ以上の驚きが襲ってきて、頭が何も理解してくれない。彼の片手が私の肩をさらりと撫でた。触れるか触れないかくらいに軽く。それでも、思わずびくりと体が震えた。長い指がつ、と唇に触れる。



「つ、つま…?」



「そうだよ。生涯辞めることは認めてあげないけどね。大事にするよ?やりがいのある、いい仕事だと思うよ?」




その顔が笑顔のままより近づいてきて、額に1つ、キスを落とされた。そろそろ私の心臓は壊れるかもしれない。




「だから、お嫁においで?私のアリー」



どこかで聞いたことのある、でも誰も使わない私の愛称を呼んで、麗しの宰相閣下はもう一度私の額にキスを落とした。

初めての投稿でした。

宰相サイドを別の話で投稿しています。

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