第89話 扉
王立楽団とアイドルたちとのコラボが実現した。
会場は、王宮内のホールが使われる。
ルネボレー・フェスティバルと題され、急遽追加で、ゴードン&カンパニー以外のアイドル達も出演することが決まった。
パンフレットも、一新された。
国を挙げての大きなイベントである。
一階の客席は空席など一切なく、満員。
小さな子供は膝の上に抱えるようにして見てもらうことになっている。一人でも多くの観客に見てもらいたいためだ。
そして私は今、二階の貴賓席からステージを見ている。
横には王様。そしてその孫たち。
小さな子供たちが一緒になって歌ったり、アイドル達の真似をして踊る姿を見るのはとても楽しい。
演奏は今回、王立楽団とゴードン&カンパニーの演奏者を混ぜている。
一番苦労したのは、演奏者たちだったという。
普段慣れていない反響のないホールでの演奏は、かなり勝手が違い、四苦八苦したらしい。そこで、伴奏については王立楽団に完全に任せ、ソロやオブリガードを入れるのみにしたそうだ。
もし次回あるとしたら、別の場所でやるのもいいかも知れない。
ステージには次々とアイドル達が現れて、歌って踊る。
ゴードン&カンパニー以外のアイドルが出ているとはいえ、半数以上は私が教えてきた娘たち。そう、可愛くて歌もダンスも上手い女の子たち。
ただ、あまりに多すぎて、名前はもう覚えきれていない。
それだけではない。
ここのところ、若い娘の顔が、どうにも同じように見えて仕方がないのだ。
もちろん、この娘はどういうことを目指していて、ゆくゆくはどんなアイドルになるだろうかってことは、一目で見抜けるようになっている。そして、間違うことはほとんどない。
でもね、よくわからなくて苦労していた頃に比べると、なにかが少しだけ変わってしまった気がしているの。
これが、歳を取ったということなのだろうか。
フェスティバルは、多くの歓声と共に幕を閉じた。
私はメイシャから、夜にゴードンレストランに来て欲しいと言われている。
正しくは、ゴードンレストランであった場所、ということになるのだが。
ゴードンレストランはあの暴動の後、一度復活した。だが、手狭になったため、ゴードン&カンパニーの歴史を展示する、小さな博物館のようになっていた。
「まだ、誰も来ていないのかしら?」
今日はフェスティバルがあったため、休業にしているそうだ。
店には電気はついていないようだった。
入り口の扉が懐かしい。昔のままである。
レイナが恐る恐る入ってきたのも、この扉。トータ姫がお城から戻ってきたのも、この扉。
もちろん街で歌っていたところ、ゴードンさんに誘われて店に入ったのも、この扉。
試しにドアを開けてみる。
不用心ね、カギがかかっていないじゃない。
暗い店内をゆっくりと進む。
壁には、ゴードンレストランが初めて出来た時だろうか。ゴードンさんとちっちゃなメイシャが、店の前で並んで立っている古い写真があった。
他には、当時の料理の写真。亀の宮廷料理も。
新社屋が完成した時の写真もあるわね。あ、新聞に投書してくれた小さな子の記事の切り抜きもちゃんとある。
乙女隊や、みるくちょこれーと、きらきらストーンの写真もあるわ。
メイシャはないけど、あの子、恥ずかしがったのかしらね。
そうか、レイナもないのか。
あっ、これって私の若い頃?
自分で言うのもなんだけど、とびきり可愛いわね。うふふ。あははは。自分で言ってりゃ、世話ないわ。
本当に色々とあったけど、楽しかったなぁ。
……。
その時、パンっと明かりがついた。
眩しくて目を閉じる。
ゆっくり瞼を開けていく。ぼんやりとした視界が、徐々に鮮明になっていった。
ステージの中央にはメイシャ。そしてその横にユリエちゃんとマイン君。
その奥には、ハンサムボーイズの面々が、楽器を手にして立っていた。
振り向くと、私が育てたアイドル達が、向こう側の壁のところに大勢立っている。
入り口の扉からも、大勢の女の子が入って来た。
「先生、おめでとう!」
メイシャがマイクで叫ぶ。
「今日は先生が初めてゴードンレストランに来てくれた日です!」
メイシャは、先生の誕生日、自分でもわからないと言ってたんで、代わりに今日ということで、と続けた。
机の上に、巨大なケーキが載っている。
「先生、おめでとう!」
「おめでとうございます!」
メイシャの掛け声で、みんなが一斉に叫んだ。
王立楽団とのコラボの日。
この日程に関してだけは、メイシャがどうしても譲らなかったらしい。
厳しい日程だからと誰が言っても、頑として聞かなかったそうだ。
私は目頭が熱くなるのを感じた。
改めて、周りを見渡す。
乙女組の三人、みるくちょこれーと、きらきらストーンのみんな。
育てた数多くのグループの女の子たち。
ビリーさんもいるわ。
「今日はね、久しぶりに先生に歌ってもらうことにしたのよ! みんな、楽しみでしょ?!」とメイシャが言う。
私はみんなに促されるように、ステージに登らされる。
「久しぶりだからな、うまく出来るなんて思わないでくれよ」
すっかり貫禄のついたカズくんが、ハンサムボーイズの面々に言い、頭を下げている。
「だらしねぇな、リーダーなんだからバッチリやってくれよ」
今でも現役のフェリペさんがカズくんに言った。
「がはははは」とヒロさんが笑う。
「なにやろうか?」と私が言うと、なんでもいいよ、とみんなが答えた。
メイシャが私に「このステージ、録画して練習生にも配るんだから、恥ずかしいところ見せちゃだめよ」と耳元でつぶやく。
私は笑って「バカにしないでよ」と言った。
ユリエちゃんとマイン君から花束が渡される。
持ったまま、私はマイクに向かって叫ぶ。
「あたし、いっちゃうよ~!」
「おー!」という掛け声。
「そこにケーキがあるけどね、アイドルの敵だから……ほどほどにね! 食べ過ぎて太ったら、先生怒っちゃうからね!」
部屋中に笑い声が広がる。
昔の通り、ヒロさんのカウントから始まる。
カズくんのベース、そしてエルフのピアニストがイントロのメロディを奏でる。
トリックエンジェルズのシンセが白玉でコードを支える。
フェリペさんのギターが、ピアノに絡むように入って来る。
そして私は、歌い出した。
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