第86話 王立楽団からの申し出
さらにゴードン&カンパニーの快進撃は続いていた。
テレビをつければ、誰かしら出ていない時はない。
新聞や雑誌にも、必ず誰かが出ている。
いくつか似たような会社が出て来て、もちろん大きくなったところもあった。
でも、揺るぎない地位は確立できていると思う。
もちろん人族だけではなく、トータ族、エルフ族、獣人族などからも、多くの歌い手を送り出している。
魔族だけは考えることができないので、今のところ一人もいないんだけどね。
こればっかりは、どうしようもない。
ある日メイシャのところに、ルネボレーの王立楽団からの使者が訪れた。
内容としては、ゴードン&カンパニーの面々と一緒にステージがやりたいとのこと。
ルネボレーの王立楽団は、人族の世界においては頂点に立つと目されていた。
世界が平和になっていき、争いごとが減るにつれ、各国の交流が増えていく。他の国の情報も入っていくに従い、ルネボレーの楽団のいかに素晴らしいかが、今まで以上に広まったということのようだ。
今までは各国の要人が来る際だけ演奏が開かれていたが、定期的に開催されるようになり、世界各国の人が見に来るという
もっともエルフに言わせると、最初に演奏を教えたのがこのルネボレーの民だったそうだ。あまりにもバラバラに演奏するので、「きちんと合わせろ」と言った言葉が延々と伝わり、このようになったんじゃないかと言っていた。
人族というのは、もともと生真面目な種族だとも言っていた。
その連絡がビリーさんを通じて、私の耳にも届いた。
今回はちゃんと聞き流さなかったわよ。
驚きもあったし。
だって、私のもう一つの夢。
それは、王立楽団と一緒に歌いたいってことだったんだもの。
王様にお願いしたら、叶ったかもしれない。
王立楽団のダンテ君も、今じゃすっかり王立楽団の中心メンバーだ。ヒロさんの線からお願いしても良かったかもしれない。
でもね、実力で認めさせたかったの。
アイドルという、この国ではなかなか認めてもらえなかった文化。それを、国を代表する王立楽団と並ばせたい。
それは王様の力でも王立楽団とのパイプでもなく、人々の気持ちとして認めて欲しかったの。
やっぱり、随分とかかってしまったわね。
もちろん、まだまだ、私はステージに立てるわよ。
可愛い……って、まぁ、可愛いお婆さんになってるんじゃないかしら。
練習生たちを日々叱ってるんで、ちょっと目は吊り上がっちゃったかもしれないけどね。
歌だって、踊りだって、今活躍しているグループなんかには負けないつもりよ。
調子に乗っちゃった練習生とか、目の前で歌って踊ってやるの。
そうすると、呆気に取られて見ているわ。
ちゃんと実力を見せてあげて、天狗にならないようにもしなきゃいけないもの。
練習生だけじゃない。グループとしてデビューしたって、変なステージでもするようなら、脇に立って見てやるの。ステージが終わった時の真っ青な顔を見るのも、それはそれで愉快。
いや、愉快って言っちゃいけないわね。お客さんに失礼。
その場で、説教と実演。これも、大事。
うん、ぜひとも出たい!
……のだけども。
練習生のみんなに言ったこと。マイン君にも話したわね。
「時間だけは、誰にとっても平等なもの。そして限られている」
そしてやっぱり、アイドルは花火のようなもの。ぱっと大きく咲いて、さっと消えてなくなる……。
人々が王立楽団と一緒にやって欲しいと願っているのは、歌もダンスも上手い「お婆さん」ではない。
――アイドルなんだ。
乙女隊や、みるくちょこれーと、きらきらストーンのような過去のグループでも、もちろんない。
そして当然、私ではない。
ずっと若い頃からの夢だったけれども、必ず叶うわけではない。
どんなに願ったって、どんなにガムシャラに頑張ったって、全てが叶うわけではない。
そんなことは、練習生のまま、デビュー出来ずに抜けていった子を見てもわかる。
乙女隊などが解散したことだってそうだ。
悔しかったけど。
私の力不足だったけど。
でも、本人たちが納得してのことだ。
私だって、ここは納得しなきゃいけない。
アイドルというのは、人から求められるもの。
求められない者がなる資格はないのだ。
もちろん、ゴードン&カンパニーの誰もが、私が出るなんて思ってもいないだろう。
ところが、一人だけ居た。私の悔しさを知る者。
もちろん、メイシャ。
一緒にやりたいなんて話したことはないけども、私が考えているようなことはお見通しだったのね。
王立楽団とのコラボという世紀の大イベントということで、各社長が呼ばれた。
私も、今回は例外なし。ビリーさんも同席とのことだった。
ただ、私に気を使ってか、練習生のいるこの場所に集まるとのことだった。
会議の前に、私を見つけてメイシャが話してきたの。
「出たいんでしょ?」
たった一言。
でも、私にはわかる。思い切り言って欲しいのだと。
「当り前じゃない。私が出なくてどうするのよ」
もう、メイシャの前で嘘はつくまいと決めていた。
傍で聞いていたら、軽口の一つにも聞こえたかもしれない。
私とメイシャはこの短い会話のあと、笑いあった。
会議が始まる。
メイシャは、今回の一大イベント全てを取り仕切る責任者を、娘のユリエに任せたいと言った。
王立楽団との折衝、アイドルグループ側のメンバーや演奏者の管理、チケット販売の仕組みづくり、会場周りの警備体制、そして宣伝など。
もちろん、表立って反対する者はいない。
私は知らなかったが、すでに本社ではユリエが経営の一部を担当しており、実績を出しているとのことだった。
また、副責任者としてビリーさんを立てたいとのこと。
こちらも、異存はないようだ。どうやらビリーさんは社内でも実務の実力者として評判になっていたらしい。まぁ、私のところでやれてるんだから、当然かもしれないけどね。
加えて、スーパーバイザーという名前で、なんと私の名前を挙げた。
――なによそのロボットみたいなの?
そこにいた面々は誰もが意味を知っているようだったが、私は聞いたこともない。
なんなのよそれと訊いたら、監修といって、外からアドバイスする人なのだと教えてくれた。
で、なにすればいいのよ?
そう言ったら、もしユリエが迷った時には助けて欲しいとのことだった。
そんなのメイシャがやったらいいじゃない。
そう言ったが、経営的な面からではなく、アイドルを知り尽くしたあなたからのアドバイスが欲しいのだと言われた。
特に具体的になにかをするというわけではないらしい。
ずっと私が願っていたことだったからね。
なにかの形で、名前だけでも参加させたいということなのかな。
こちらも誰の反対もなく決まった。
お読みいただき、ありがとうございました!
ブックマークなどなど、まことにありがとうございます。
更新の励みとなっております!
引き続きよろしくお願いいたしますm(__)m