第83話 メイシャの子供たち
残すところ、今回を入れて10話分となりました。よろしくお願いいたします。
「ご無沙汰しております、先生」
声の方を向くと、そこには年輪を重ねた美しさと色気を湛えた女性の姿があった。腰の辺りに少し肉感が出ている気はするが、それも年相応の艶を感じさせる。匂い立つような色香があった。
「メイシャじゃない、久しぶりね!」
「あなたも社長なんだから、たまには取締役会に参加しなさいよね」
「あー。行っても、なに言ってるかよくわからなくて眠くなるだけなんでパスよ、パス」
「相変わらずねぇ。まぁ、先生らしいけど。元気そうでなによりだわ」
「もしかして、その文句を言いに来たわけ?」
「違うわよ。そっちの経営は順調だし、全部お任せしているから問題ないわ。新しいグループの名前を考えて欲しいって毎回来るんで、どんなグループを売り出そうかもわかってるしね」
メイシャはそう言って微笑んだ。グループ名をつけるセンスは私にないようで、毎回新グループを作る時には、メイシャにメンバーのコンセプトを伝えて、名前を考えてもらっていた。
「今日はね、うちの子たちをお願いに来たのよ」
メイシャの横には少年と少女が立っていた。少女はメイシャの若い頃にそっくり。
「もうこの子も二十歳になったし、下の子も十八なんで、仕事させようかなって」
そうか。もうそんなに経つんだな。考えてみれば、上の女の子が生まれた時以来会っていない。ゴードンさんのお葬式以来だ。
メイシャはその後、男の子も出産したが、初めて会う。
「今ね、うちの各部門を順次回らせて、研修させてるとこなのよ」
「そうなの? 初耳だわ」
「あなたが会議に来ないからよ。ビリーさんには伝言してもらったはずだけど」
そう言ってまた、メイシャは笑った。
ビリーさんとは、私のアイドル育成部門で取締役をやってもらっている男の人。金銭面だとか、他の部署とのやり取りや会議とかを一手にお願いしている。
そういえば、ビリーさんがなんだか言ってたような気はするが、適当に聞き流してたかも。
あ、副社長って言ってたかしら。
ほんと、そういう役職とかってのも疎いのよね。
ビリーさんがやっていることには、一切口を出さない。同じように、私がやっていることにも、ビリーさんは口を出してこない。
最初に来た時には、色々と口やかましく言われたけど、全部無視してたら、ほとんど何も言わなくなった。
とはいえ仲が悪いわけではなく、それぞれの担当をきちんとこなすという役割分担が明確になっているから……と、勝手に私は思っている。恐らく、そんなには間違っていないはず。
きっと、ビリーさんに訊いたら「言いましたよ」と大笑いされるだけだ。
「えっと、たしか、ユリちゃんだったかしら」と私が言ったら、「ユリエです」と本人に訂正された。そうだ。ユリエちゃんだったわね。
「ほら、あんたも挨拶しなさい」
そう言われて頭をぴょこっと下げたのは、弟のマインくん。
恥ずかしがりやね。カズくんの若い頃にそっくり。
「上の子はあたしに似て賢いんだけど、この子はいつもぼーっとしているのよ」
メイシャはそう言って笑った。でも、マインくんが、とっても心の綺麗な人だってのはわかる。何人も色んな子を見てきた私が言うんだから間違いないわ。
姉のユリエは経営に興味があるようで、どうやらその分野の学校にも通い、成績もトップで卒業したそうだ。
マイン君も同じく経営を専攻しているが、成績はさほどでないらしい。もうすぐ卒業するとのことだった。
「卒業って、そんな時期に働かせちゃっていいの?」
「この子はね、机の勉強よりも、実際にやらせた方がいいかなって思うのよね。まぁ、卒業するくらいは出来るでしょうし」
メイシャはそう言いながら、マイン君の髪をクシャクシャと触った。
「母さん、やめてよ。恥ずかしい」
メイシャの様子からは、なんとなくだが弟くんの方が好きなように感じた。母親は男の子の方を甘やかすことが多いそうだ。メイシャもいっぱしの親ばかになったのかしらね。
「一か月くらいなんだけど、よろしくね」
そう言って、メイシャは帰っていった。
ビリーさ~ん! と私は電話をかける。
「はい」
「この話、聞いてた?」
「もちろんです」
「で、どうするの?」
「こちらで受け持ちますので、私のところに来るよう伝えてください」
さすがビリーさんね。良くわかっている。
「あの、わたし、出来れば経営面よりも、実際に女の子たちをトレーニングしている時に、どういうことを考えているかを知りたいです」
ビリーさんとの電話の最中に、ユリエちゃんが口を挟んできた。
「んー。一か月しかないし、とても伝えられるとは思えないのよね。実際にアイドルになりたいというわけでもないんでしょ?」
「もちろん。ただ、会社のメインとなる事業なだけに、きちんと把握しておきたいなと。経営側であれば、他の部門でも学べますので」
しっかりしているところは、メイシャ譲りね。
いいでしょう。ただ、口で教えるなんて出来ないんで、見ながら自分で考えてねと言ったら、はいと答えた。
「ところでマインくんはどうする?」
「あ、おれは、えっと……」
そう言ったきり、黙ってしまった。
「もう、ハッキリしなさいよ。あんたは、いつもそうなんだからっ!」
ユリエちゃんが怒鳴りつける。うふふ。相当気が強い子ね。
いいわ、二人とも面倒みましょう。
「ビリーさん、この二人、私のところで預かるわ。とは言っても、ずっとってわけにはいかないから、合間は、ビリーさんにお願いすることになるけども」
「承知いたしました」
うん、これだけで話が伝わるところが、ビリーさんの素晴らしいところ。
今、練習生たちは数が増えているので、種族ごとに五つのグレード別になっている。最上級グループの生徒たちは、たまに何人か連れて、デビュー後のグループのバックで踊らせたりすることもある。まぁ、私の気が向いた時だけなんだけどね。
でも、グループに選ぶかどうかは別。上のグレードでも長い間組めずにいるのもいれば、下の方の子をいきなり抜擢することもある。一番下のグレードからは、さすがに今までないけども。
上二つのグレードなら、お客さんがいる想定ってことで、この二人に見せてもいいかも知れない。
それ以外の時は、ビリーさんにお任せしましょ。
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