第81話 ゴードン&カンパニーの進撃
新しく出来た地下ステージでの初演奏会は、当然のごとく成功に終わった。
きらきらストーンも、アミのベースはカズくんが裏で弾いたが、他のメンバーは演奏も完璧にこなしていた。
人気投票で3位に急上昇もしていた。
演奏終了後に、お客さんのいる前でメイシャとカズくんの結婚と懐妊も発表された。
メイシャのたっての希望だという。
それから、わずかに燻ぶっていたメイシャと私の仲についての憶測はピタリと止んだ。メイシャは何も言わなかったけれども、それも狙っていたんじゃないだろうか。
メイシャの出産を待つようにして、ゴードンさんが亡くなった。
すでに心の病は完治していたが、新たに身体の病気を患ってしまっていたようだ。若いがゆえに病の進行は早く、あっという間の出来事だった。
まだまだこれからなのにと人々が口にした。
死ぬ間際、ゴードンさんは私たちを呼んで、こう言った。
「とっても楽しい人生だったよ」
私は涙が止まらなかった。ゴードンさんの手を握りしめる。その手は、病気のせいか、前よりも小さく感じる。そして、とても乾いていた。でも、温かかった。
ゴードンさんは、この世界での、私の親代わりのような人。
もう、なんて言っていいかわからない。まだ全然恩なんて返せてないし。私と出会ってなければ、もっと楽しい人生送れたんじゃないだろうかとも思ってしまう。
そもそも成功したとか失敗したとか、そんなことをゴードンさんは願ってなかった。ただ、来るお客さんの笑顔が見たかっただけ。
そう思えてならない。
一体、なにが幸せというものなんだろう。
ゴードンさんの一生を思うと、よくわからなくなる。
もともと冒険者に交じって料理を作るところからゴードンさんはスタートした。私はパーティで戦闘をしたことはないが、命を削るような戦いの中で、食事というのがどれだけメンバーの心を休めるかは想像に難くない。太い不器用な手で、それでも最高の料理を作ろうとしていた。全てはつかの間の、みんなの笑顔のため。
私がゴードン&カンパニーの音楽面を仕切ってきたのは事実。歌もダンスも上手かったのも事実。でもきっと、ゴードンさんの温もりや心意気に出逢えたからこそ、どう歌ったらいいか、どう踊ったらいいか、自然と教えてもらったんじゃないかとも思う。
お客さんもそんなゴードンさんのお店だからこそ、楽しみに来てくれた。
そんなゴードンさんが、今、亡くなった。
葬儀は関係者だけで行うことにした。
メイシャはもっと大きくやりたいと言ったけど、カズくんが止めた。私もその方がいいと思う。
ゴードンさんは華やかなことも好きだったけど、意外にシャイだったから。
メイシャの出産としばらくの間の休養を経て、ゴードン&カンパニーはさらに攻勢を強めた。
もちろん、メイシャが先頭に立っている。
私の知名度も上がって来た。
それは歌手としてよりも、次々と若手のアイドルグループを世に出す名プロデューサーとして。
私はもう、ほとんど人前に立っていない。
メイシャの結婚があってから、どこか心の中でぽっかりと穴が開いてしまったようだ。
でも、私を信じてアイドルになろうと頑張る娘たちがいる。
努力を続けるこの子たちの夢は、なんとしてでも叶えてあげなきゃいけない。
ただ、その一心で私は日々を過ごしていた。
メイシャは会社をホールディングス化した。
ホールディングスとは、各子会社の予算を決めることを唯一の事業とする親会社が、傘下の企業の株式を保有し管理する形態のことだ。
新規事業への参入や、子会社の権限が強くなるというメリットがあるそうだ。
親会社の社長はメイシャ。
楽器部門はカズくんが社長。
レストラン部門はハンサムボーイズで最初にセルを弾いていたフェルドさんのレストランと合併し、フェルドさんが社長を任されている。
グッズ販売部門は結構ダークな商売らしくて、各国の元幹部兵士や警備団幹部OBなどを取締役に採用し睨みをきかせつつ、法的な規制の拡大と違法販売の取り締まりにも乗り出しているようね。
他にリゾート事業にも手を広げ、全国にホテルやステージなどを運営している。
それと、ステージ、レストラン、ホテルを新規開拓する不動産会社なんかもあるようだ。
広報部門としては、例の人気投票をやっていた人たちを招き入れたらしい。
何回か会ってるんだけど、アイドルに対しての熱量が半端なかったのよ。好きなアイドルが言ったことを一言一句漏らさずにノートに書いてたり、アイドルについて、殴り合いでも始まるんじゃなかってくらいの議論をしてたり。
誰よりも熱狂的だったわ。
まぁ、実際のアイドル本人からしたら、ちょっと違うよねっていうところもあるんだけど、知らなかったところに気づかせてくれるのはとても有難い。なにかあれば、すぐに連絡をくれるようにしてある。
それと、人気投票で私のことを別枠で表示するのはやめてね、とだけはお願いしておいた。
事業のメインとなる音楽部門の社長は私。
とはいえ社長なんてガラじゃないんで、お金とかそういうのは全部メイシャ任せ。
実質、なんにも変わっていないともいえるが、どうやらこうした方が経営しやすいのだという。
会社と言う名のもとに、見たことのない人たちが出入りするようになり、いつの間にか何かが決められていき、成功だの失敗だのと言っている。
まぁ、私には関係ないってことで、好きにさせてもらっているけど。
とにかく私は、努力を続けるこの子たちの夢を叶えたいだけよ。
この点に関しては、王様だろうと神様だろうと、誰にも口を挟ませない。
きらきらストーンのアミもすっかり上手くなって、きちんとステージでもベースを演奏できるようになった。
さらに、3つのグループもデビューを控えている。
乙女隊のみんながデビュー前の子を育て、さらに、みるくちょこれーとの皆も、それに続く子たちの面倒を見ている。
バンドがハンサムボーイズひとつだけじゃ足りなくなってきているので、バックバンドもオーディション中。
でも、なかなかハンサムボーイズに匹敵するようなメンバーは見つからない。
彼らのことが好きだということも大きいのかもしれない。
ただ、一つだけ言えるのは、私たちがなにをどう考えるかによらず、ゴードン&カンパニーは成長を続けているということだった。
お読みいただき、ありがとうございました!
ブックマークなどなど、まことにありがとうございます。
更新の励みとなっております!
次回更新は、6月21日(月)となっております。
引き続きよろしくお願いいたしますm(__)m