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第74話 背水の陣

 メイシャはすぐに準備を始めた。

 今回は、ゴードンレストランでステージを行うが、飲み物だけで食事の提供はなし。

 出演は、グリーンマーメイド乙女隊と、「新しいグループ」とだけ書いてもらう。みるくちょこれーとの発表は、ステージで行うことにした。

 チケットの販売を始める。


 どちらを先に登場させようか迷っていた。

 知名度からいえば乙女隊を後にする方がいいだろう。実力も上である。

 今回、メイシャは自分で言った通り、出演しない。

 私も出演を見送った。少しでも過去の事件の傷跡は少ない方がいい。


 予想外にチケットの売れ行きは良かった。いや、即完売というわけではないが、全く売れないのではないかという最悪の予想もしていたのだ。

 乙女隊の石板の売れ行きも上がっているらしい。


 まだ人々に忘れられていないことが嬉しかった。

 これなら『みるくちょこれーと』を先に登場させてもいいかもしれない。

 だが、念のために出演順はギリギリまで待って決めようと思う。


 彼女たちはもちろんステージ経験が乏しい。好奇の目にさらされる恐れもある。条件が少しでも良いところで、実績を積みたかった。


 ゴードンレストランの前に、魔族とトータ族のところでやろう。

 ヒロさん、プリンシペさんも出るので、ホーム感覚でも出来そうだし。

 メイシャも、ハンサムボーイズも賛成してくれた。


 ただ、いきなりだったので、カズくんの予定が上手く合わない。

 そしたら、冒険者パーティとの約束をキャンセルし、参加してくれることになった。

 2回目の引退だし、パーティ参加のキャンセルをしたら今後、冒険者としてはやっていけないかも知れないという噂も聞いた。それでも、僕はリーダーだからと参加を決めたようだ。


 誰もがもう引き返せない。

 背水の陣で臨む。


 結果的には、魔族のステージもトータ族のところも上手く行ったの。

 もちろん事件なんて関係ないので好意的だし、ただリハーサルの通りにやればいいだけ。乙女隊にも引けを取らないほどだったわ。


 それでもウェンディを中心にメンバーで反省会を開いてた。もう私がなにか言うこともないわね。


 そしてゴードンレストランでのステージが始まる。

 ゴードンさんは相変わらずぼーっとした顔をしていたが、観客席の後ろに座ってもらうことにしている。最近ではもう何を聞いても反応しないが、私としてはゴードンさんへの恩返しのつもり。

 そして、もしこれが最後になるなら、その姿も見て欲しいとメイシャが言っていた。


 チケットを買ってまで観たいという人は、さすがに好奇心だけではないようだ。乙女隊がプリントされたTシャツを着てたりもする。あれ、でもこれってウチで出してないわよねと思ったら、どうやら海賊版らしい。


 ただ、店の前には大勢の野次馬が大挙していた。

 新聞記者たちも大勢いる。

 周囲の迷惑になるからと言っても帰らないので、記者たちには後ほど時間を取ると言い、野次馬たちは警官に頼んで排除してもらう。

 出演者のみんなには見せないようにと、全部メイシャが陰で取り仕切ってくれた。


 私はその光景も見ていたので、人々の異様な顔に震えが来ている。人ってあんなにも醜い表情が出来るのね。やはり簡単には済まないだろうことが伺われた。


 ステージ開始前の挨拶は、カズくんにお願いした。メイシャも私も前に出ない方がいいと考えていた。


「本日はみなさま、お越しいただきまして……」


 席にいた数人が急に立ち上がった。


「例の事件のことで、詳しく聞きたいのですが!」


 観客の中にも記者がいたようだ。


 静まり返る。

 そして席にいた観客が叫んだ。


「帰れよ! お前たちが来るとこじゃない!」


 その後も記者たちは食らいつこうとしていたが、観客たちに外へ放り出された。

 私はちょっとだけ、涙が出てきた。

 まだ、こんなにも信じて待ってくれている人がいたんだ……。


 カズくんは挨拶を省き、続けた。


「みなさまに、僕たちの新しい仲間をご紹介いたします」


 照明を落とす。ヒロさんのドラムロールが鳴る。


 再び明かりがついた時、ステージの上には『みるくちょこれーと』の面々が立っていた。


「わたしたち! みるくちょこれーとです!」


 本当は乙女隊の登場と同じように、それぞれのメンバーが名乗る段取りだった。緊張でもしたのかと思ったが、後で聞いたら「その方がいい」と暗転していた間にメンバーで話し合ったそうだ。

 確かに、インパクトはあったかも知れない。

 そのまま歌になだれ込む。


 1曲目は『おまたせ』というタイトル。

 女の子が待ち合わせにわざと遅れてきて、それまで彼氏の反応を見ていた、という歌詞だ。

 男女で相手を試すかのようなことは、この国ではご法度とされている。

 でも、女の子ならきっと経験があるはず。そういう女の子の気持ちを、男なら可愛いと思ってくれるはず。

 もちろん、お客さんをお待たせしたってことも掛けている。


 狙いは成功したみたい。聞いたことのない曲だが、2番では合いの手も入るようになっていた。


 実は心配していたのは彼女たちのことだけではない。

 ギター(セル)のことだ。

 フェルドさんが脱退して加入したフェリペさん。今気づいたけど、名前も似てるわね……。

 なんだかやっぱり、交代ってことになると色々と比較されるようで。


 前のフェルドさんの方がカッコいい演奏だったとか言う人。まぁ、演奏力に関しては、経験の差があるんで仕方ないかもだけど。

 笑っちゃうのは、フェルドさんの衣装で魔族っぽい感じがとっても好きだったと言う人。フェリペさんは正真正銘の魔族なんだけどね。


 そうやって色々と言われるということは、評価もされてるってことだし、注目もされてるってことだと、良いように捉えようとはした。

 でも、不安だった。

 ギター(セル)は歌手と同じように花形ポジションのようで、気の毒に思えるほど色々と言われていたのよ。最悪、引っ込めとか言われるんじゃないかとか。


 でもね、フェリペさんの明るいキャラで、吹き飛ばしてくれたみたい。

 観客の人たちは、フェリペさんの手拍子に合わせてくれたりもする。

 良かった……。


 2曲目が始まる頃には、客席で座っている人は一人もいなかった。

 全部で4曲やったんだけど、ずっとみんな立ちっぱなしだったわ。

 ただし、ゴードンさんを除いて……。


お読みいただき、ありがとうございました!


ブックマークなどなど、まことにありがとうございます。

更新の励みとなっております!


引き続きよろしくお願いいたしますm(__)m


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