第73話 グループへの道のり
グループを組んで最初の日、歌とダンスのレッスンに加えて、三人で話し合う時間を作る。これは、乙女隊の時にもやった。
もちろん、ジェニーとマイは参加していない。三人と私のみ。
「アイドルってなんだと思う?」
ただ質問を投げかけるだけ。
まずはそれぞれ紙に、思いつくままに書き出させ、みんなで発表する。
ルナは「かわいい」「楽しい」「夢を与えてくれる」「他の人と違う」のたった四つだけだった。
「もっと色々とあるけど、なんて言っていいかわからないのー」
ウェンディはさすがね。20個以上も書いてあった。でも、それをひけらかすことなくルナに質問してる。
「かわいい、ってどういうことなんだろう」
乙女隊の時は同じことを私が質問してった。今回はウェンディに任せて、しばらくは口を挟むことなく、ただ聞いていよう。
「うーん、かわいいってのは、……かわいいってことよ」
ルナはこういう時のボキャブラリが少ない。言いたいことは一杯あるはずなのに、言葉が出てこないようだ。普段はみんなとキャーキャー騒いでるのに、こういう真剣な場面には弱い。
可愛らしい顔をしているのだが、腕っぷしが強くて、剣では周りの男の子たちを全員負かせちゃったこともあるらしい。負けん気は強いのだ。
一旦言い出したら聞かない頑固なところもあって、オーディションに受けると言った時は両親に反対されたが、押し切ったそうだ。事件が起きた時も心配して駆けつけた両親に、まだ夢を叶えていないからとその日に追い返していた。
気になるとやってみなくちゃ済まない性格。でも考えなしに行動が先に来るので、今までに言葉できちんと相手に伝えるということは苦手なようだ。
私が興味を持ったのは、ルナの四番目の答。他の子は誰も挙げていなかったもの。
「他の人と違うって、誰とどういうことが違うんだろうね」
私はルナだけでなく、三人に訊いてみる。
「みんな一緒じゃない? アイドルだってそうだと思うけどな。自分は人と違うって言ってる人で、本当に違ってる人なんて見たことないけど」
アリスが言う。この娘は本当に冷静だな。
「だって、もし違わなかったら、アイドルになりたいなんて言わないんじゃない?」
「アイドルになりたいって、あんなに大勢オーディションに来たじゃない」
「でも! 本当にアイドルになれる人って、他の人とは違うでしょ」
「あたしはそうは思わないけど」
光と影の言い分。
なかなかいい感じだわ。
「まぁまぁ、そう喧嘩みたいにならくてもいいじゃない。よく考えてみましょうよ」
ウェンディのこういう所はよくないと思う。口喧嘩するくらいでいい。
私はウェンディに「あなたはどっちだと思う?」と振る。
「わたしは……。アイドルになるには他の子とは違ってなきゃいけないけど、アリスが言うように、他の子と違うからってアイドルになれるわけじゃないと思う」
100点満点の回答だ。お互いの言い分を立てつつ、丸く収めようとする。
でもね、そこにはあなたが、どうなりたいかってところがないのよ?
「じゃあ、他の人と違うところ、違わないところを考えてきてね。宿題よ」
本当はアリスの回答で「お金が稼げる」ってのも話したかったんだけど、また今度にしよう。次はルナは反発するんだろうな。楽しみでしょうがない。
話し合いが終わってドアを開けると、そこにはジェニーとマイの姿があった。
三人は久しぶりに会えたと喜んだが、私を気にしたか、すぐに黙った。
一切顔を合わせないようにと伝えてある。
「どうしたの? 約束したでしょ?」
「あの……。レッスンとかには出られないのはわかっていますが……」
「そうよ」
「レッスンが終わった後の片づけとか準備とかさせてください」
まったく、この娘たちは……。
三人を隔離したのは理由がある。
グループを組んでいくためには、三人がどうなりたいか、という目的が必要だ。
しかも誰の意見も聞かずに決めることが大事。自分たちで決めなければいけない。
私は決まったことに、それはOK、あるいはダメと言うだけだ。
それともう一つ。
彼女たちと顔を合わせてしまうことで、「選ばれなかった娘のために頑張る」とは思って欲しくないのだ。
それは若い子がしばしば陥ってしまう罠。
もちろん短期間ならそれもいい。
でも、いつかジェニーもマイもステージに立つだろう。いや、絶対に立たせる。
しかし、そうなったら彼女たちの目標が達成できてしまう。彼女たちがたとえなにもしなくても、完結してしまう。
他の誰も関係なく、あくまで三人がどうなりたいか。
彼女たちを一過性のアイドルにはさせたくない。
だからこそ隔離して、他のことを一切気にせず自分たちだけに目を向けて欲しいのだ。
ウェンディが昨日、「先生、話し合いってなんでやってるんですか」と聞きに来ていた。ルナとアリスがあまりにも話が食い違うので、険悪な雰囲気になってるんですと。
私がけしかけているところもあるからね。もちろん、ウェンディはわかっているだろう。
「それって悪くないことなのよ。お互い言っている同じところだけをくっつけたって、中途半端になるだけじゃないかしら? 違うところも全部ひっくるめてのグループだと思うわよ」
ウェンディはリーダーだ。他のメンバーが訊きに来てもはぐらかすが、リーダーには少しだけ私の考えを詳しく伝える。
あのウェンディがこんなことを相談に来るほど、それぞれのメンバーが真剣に考え始めたのだと、私は少し嬉しくなっていた。
もうあの二人と顔を合わせること位はいいかも知れないと思う。そんなことで気が散ったりしないんじゃないかと。
二人に準備と片づけをお願いすることにした。
そしたらね、あの二人。レッスンでどんなことをやっているか知りたかったみたい。三人が書いたメモなどを、片付けるふりをして読んでるの。
マイはヒロさんにドラムを習っているという。なにかで自分を広げなさいという私の言葉で、まずは音楽をもっと知ろうと考えたらしい。ヒロさんがそう言っていた。
その影響でジェニーもフェリペさんにギターを習い始めたようだ。
そんな二人の姿を見たのだろうか、三人もなにか気づくことがあったようね。
宿題を出してから二か月ほど経った頃、私のところに来て言った。
「わたしたちにとってのアイドルとは、人々の世界を映し出す鏡です。色んな人がいて、色んなことがあって喜んだり悲しんだり。でも、一人一人にそれでいいんだよって全力で伝えていくのが、わたしたちにとってのアイドルです」
私にとっては、内容はどうでもよかった。
『わたしたちにとって』という言葉さえ出てくれたら、もう合格点。
もっともこの時初めて、ヒロさんや姫がトータ族であることや、フェリペさんが魔族であることなども話したら、『人々』じゃなくて『生きているもの』かしらとルナが真剣に悩んでいて笑っちゃったわ。
私はメイシャと相談して、二週間後にゴードンレストランでステージを開くことに決めた。
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