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第72話 笑顔の二人

『みるくちょこれーと』を五人に告げた時、選ばれた三人は、はしゃぐように喜んだ。ルナなんて、床を転げまわって喜んでいた。

 ずっと長いこと必死になって練習してきたもの、当然よ。


 でもね、ウェンディが言ったの。

「どうして五人一緒じゃダメなんですか」って。


 その場では理由は告げなかったわ。今はもちろん言うべき時じゃない。


「まだ、あくまで仮。あなたたちが本当のグループになれたと私が思うまで、ステージには決して上がれないと思っていてね」


 ウェンディはもうそれ以上、なにも言わなかったわ。


 私が本気でそれを言ってるってこと。

 目の前の一つのチャンスを掴むには、他のことに気に取られてはいけない。これはずっと全員に伝えてきたこと。

 グループになるという目標を三人できちんと達成しなければ、本当に先はないんだということが伝わったようね。

 三人とも喜ぶのをやめ、残りの二人を慰めるのもやめ、黙って言われた通り部屋の引っ越し作業に向かったわ。


 この三人は、ひとつの部屋でしばらくの間、共同生活してもらう。

 メイシャと私のレッスンはこの三人にほとんどを割くつもり。もう一段階も二段階も、ギアを上げようと思っている。

 残りの二人は別の部屋にする。三人とは別行動で、顔を合わせる時間もなくす。

 すべては、三人だけで新たなグループを作り上げるために。


 もちろん、選ばれなかった二人にはきちんと話をする。

 だが、慰めるためではない。

 将来へのステップになって欲しいからだ。


 まず、ジェニーを部屋に呼ぶ。

 余程でなければ涙を見せないジェニーだったが、部屋に入るなり大声で泣き出した。


「あたしの、どこがいけなかったの!」


 いけないところなんてないのよ、とつい言ってしまいたくなる。

 いつデビュー出来るともわからず、しかもこんな悪い状況の中で先頭に立ってみんなを励ましていたのは彼女。本当に良くやってくれた。

 たんぽぽ組が事件を起こした時、落ち込むみんなを奮い立たせようとしたのも彼女。

 あの時は、本当に感謝したわ。


 ただ、ウェンディとの違いはひとつ。

 みんなが自分の思う通りにならないと怒ったことがあった。


 でもそれは彼女の『したいこと』であって、みんながやりたいことではない。


 ウェンディはアイドルというよりも、アーティスティックなダンスが好きのようだった。でも、アイドルを夢見る()たちに、それを強要することは一切ない。むしろ必死になって、アイドルたるべく振舞えるよう、自分を追い込んでいた。


 ジェニーもどちらかというと、歌の世界でアートを表現したいみたい。そして、それをみんなにも強要していた。

 彼女はYっ娘の中で一番、メイシャの凄さを理解し、メイシャのようになりたいと心から願っていたんじゃないかと思う。

 そう、ソロで目立つ意識ってことね。


 決して悪くはない考えだし、それで突き進むのもいいとは思う。でも、彼女はまだ大事ななにかを勘違いしてしまっているように思えてならなかったの。


「今のままではジェニーはグループになれないよ。その意味は自分でよく考えてみて」


 厳しいようだけど、私はそう言った。言ってて涙が出そうになって、堪えるのが大変だった。


 もっと泣きそうになったのは、マイ。


「わたし、もっともっと歌もダンスも頑張らなきゃいけないんですよね。わかってます。これからもよろしくお願いします!」


 心の中では大粒の涙を流しているはずなのに、そう言って私を見ながら無邪気な顔で笑う。言った言葉は、一切の嘘や飾り気などはないはずだ。心の底から本心で言っている。そういう()なのよ、このマイは。


 全く歌もダンスも基礎さえ出来ていなかったのに、今じゃもう、そこら辺のレストランで実際に歌っているたちとは比較できないほどに、上手くなっている。

 毎日必死に努力しているのを知ってる。


 ただ、今は視野が狭くなっているのかもしれない。


 人って生まれ持ったポジションっていうのがあると思うの。

 誰もが自分の人生の中では主役だけども、グループという輪の中で華を出すには、もっと自分の枠を広げないといけないこともある。


「なんでもいいから、二つ目の得意技を見つけてみたらどうかしら。歌とダンスだけでなく、なんでもいいわ。それがきっとあなたのアイドルとしての未来を助けるはずよ」


 マイでさえ、私の言葉はすぐには理解できなかったようね。しばらく考え込んでいるような顔をしていたわ。

 それでいいと思う。一杯、そう、目一杯、色んなことを考えて欲しい。色んなことをやって欲しい。

 すぐに答えが出ない方が、きっとあなたの力になると思うから。


 そして最後に二人を帰す前に言った言葉がある。


「あなたなら出来るから!」


 二人とも悲しむのはやめ、私を向いて「はい」と言った。

 グループに選ばれなかった過去ではなく、これからの未来に顔を向けてくれたようだ。


 この二人も、私の命に代えてでもなんとかする。


 二人が最後に見せてくれた笑顔を、決していつまでも忘れない!


お読みいただき、ありがとうございました!


ブックマークなどなど、まことにありがとうございます。

更新の励みとなっております!


引き続きよろしくお願いいたしますm(__)m


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