第69話 レイナの移籍
貴族の子供たちの件もあり、レストラン自体の営業停止は免れた。
親たちも本人たちも、そこまで真剣ではなかったことが幸いしたようだ。世間では失敗と言われたけど一応、約束のデビューはさせたからね。
でもキャンセルが相次ぎ、レストラン自体の客の入りも減っている。
もちろんステージなんて出来る状態ではない。
あたしもしばらく休むことにした。
Yっ娘たちを前にして、ゆっくり言葉を選びながら丁寧に丁寧に話をする。
タンポポ組の件……。
年齢が私たちと同じくらいってこともあって、きちんと『判断』が出来るものだと思っていた。判断ってのは、アイドルとして正しいことをするってこと。
子供の心を持ってないとやっていけないけど、どこか大人よりも大人にならなきゃいけないの。これをしたら周りにどう見られるか……。ううん、ちょっと違うわね。どう見られるかなんて全部わかった上で、それでも自分のやりたいように、好きなことは好きってやるってことかな?
人が望まないことをしてもダメ。でも、人々が望むように合わせるのでもダメ。
自分を信じるって、そういうこと。
そんな当たり前のことは、ステージのあたしたち、ステージが終わった後のあたしたちを見ていて、そうなりたいと願っているならとっくに気づいているものだと思ってた。それでもわからない子がいたから、こうして話をしているんだと。
残った娘たちは、本当に真剣に、心からあたしの話を聞いてくれた。わずかな期間ではあるけども、タンポポ組のみんなと一緒に過ごしたこともあってか、みんなが涙を流しながら聞いてくれた。
今の状況についても話す。
あたしたちは法的に罪にはならなくても、人々の見る目は厳しい。ステージで、しかもお客さんと一緒になってキラキラした世界を作り上げるのは簡単には行かないかもしれない。
実際、貴族グループの失敗も含めて、ゴードンレストランはもう終わりだとも言われている。見せかけだけのマガイモノだったんだとも言われている。
Yっ娘には、もしステージに出たいだけなら、ここを抜けてよそへ行った方がいいとも伝えた。
でもね、あの時見たあたしたちのステージが忘れられないと言ってくれたの。ここまでやってきたから、このまま続けさせて欲しいって。
先生たちと一緒にやりたいって。
なんとしても、彼女たちの思いは受け止めてあげなければならない。
あたしもメイシャも、今まで以上にレッスンを全力で行うようになった。
だが、事態はすぐに良い方にはいかないものだ。
あたしたちがステージをやらないこと。
周りのレストランがステージを立て続けに行っていて、星の数ほどのアイドルが出てきていること。
やっぱり、何度も見に行ける方が人気が出るのは当たり前だ。
楽器やヒルダ―の性能が向上して、ステージとしての質が上がっているのも理由の一つだろう。
パッと見だけでは、もうそこまで変わらないかもしれない。
やがて、人気投票でレイナが首位の座を明け渡した。
とはいえTOPは乙女隊なんだけど。でも2位との差は縮まっている。
そう、つまりレイナは2位でもなく、辛うじて一桁台の9位。
メイシャは依然17位のまま。あたしは変わらずランク外だけど。
そんな中、レイナが抜けると言い出した。
メイシャ、ゴードンさん、あたしで何度も説得したの。
必ずステージをやるから。
その時はレイナが必要なの。
今まで頑張ってくれた姿を誰もが知っている。
これからも一緒に力を合わせてやっていこうよ。
だが、レイナの耳には一切届かなかった。
あたしたちがYっ娘にかかりっきりになっていたこと。
ステージがあまり上手く行かないレイナの替わりにYっ娘を育てているんじゃないか。そう以前に相談されたことがある、と乙女隊は後で明かしてくれた。
そんなわけないでしょう。
でも、疑心暗鬼にさせてしまったことは事実。ケアもなにもしてあげられていなかった。
人気投票が落ちていったのも追い打ちをかけたんでしょうね。
さらに、メイシャとあたしとの秘密……。
見られた後、面と向かって訊かれたことはない。二人がどういう関係かと。
イヤだったのかもしれない。今までの3人の関係が崩れてしまったと思ったんだろうか。
いずれにしても彼女がどのように捉えたかわからない。でも、要因になったとあたしは思ってしまう。やはり、後ろめたいことに間違いはない。
レイナはすでに移籍するレストランを見つけていた。
もちろん見には行けなかった。ただあまり良いステージではなかったそうだ。
乙女隊やメイシャ、あたしのファンからは裏切り者と見なされ、また、そのほかの人たちからはゴードンレストランで起きた事件の汚名を一身に浴びせられたらしい。
あたしはレイナのことも、もちろん好き。
一緒にここまでやってきた仲間だと今でも思っている。抜けたからといって悪くなんて思えやしない。レイナがいなくなったんだと、自然に涙が流れてくる時もあった。
でも、こればかりはどうにもならなかった。
やがてレイナの順位は圏外まで行ってしまった。
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