第68話 たびかさなる失敗
レストランでのステージがちょうど終わった時、警察からの連絡を受けて、ゴードンさん、メイシャとあたしが三人を引き取りに行った。
三人とは、たんぽぽ組……。
てっきり家にいるもんだとばっかり思ってたのに、酒場にいたらしいの。
まだ未成年よ。
それだけじゃない。
飲むお金なんてないもんだから、セレーナとケイティは、他人の家に忍び込んで盗みを働いてた……。お賽銭まで盗んでたりもしたそうなの。宗教で全てが成り立っているこの国で。
この時のメイシャの対応は、実に早かったわ。
親を呼んで三人とも解雇を言い渡した。
リリーちゃんはその日初めて酒場に行ったらしいんだけど、問答無用。
「他の子に唆されたのよ。そんなことをする子じゃないの!」
親御さんはそう言って庇ったけど、一切聞かなかった。
ゴードンさんは、ずっと頭を下げたままだった。
契約書には「管理監督の義務を負わず、日常生活はあくまで本人の自主性に任せる」との項目があったので、法的な責任は負わなくて済んだみたい。
ただ、しばらくゴードンレストランに限らず、楽器屋なども営業停止にさせられるようだわ。
この事件はあっという間に町中、いやルネボレーの国中。ううん、それだけじゃなくて、他の人族の国にも広がるでしょう。世界に広めちゃったっていう反動ね。有名になるのも、いいことばかりじゃない。
こんなことになったのは、全部あたしたちのせい。
忙しかったから、ってのは言い訳にならない。
でも、どうしたらいいんだろう……。
そんな中、ゴードンさんがあたしにある話を持ってきた。
別のレストランで同時にデビューさせるという3人組の男子、それと4人組の女の子の話だ。それぞれ『貴公子』と『高貴な子猫』というグループ名だと聞かされた。
なんでも、この男子のうち二人と女の子の一人が貴族の子供で、無事にデビューさせてくれれば、裏で手を回してレストランの営業停止を撤回してくれるという。
今まで男の子のアイドルグループはないので、目玉にしたいということもあるらしい。
ステージはしばらくやれないにしても、レストランや楽器屋の営業まで出来ないのは辛い。特に男の子のグループなんて経験もないんだけど、あたしは言われるがまま、彼らの後押しをすることになった。
でもね……。
リハーサルが終わった瞬間、一緒に来たゴードンさんに「もっとマズいことになるかも」と言った。
顔立ちは悪くない。特に貴族の子たちは、いわゆるイケメン、美少女ってところかしら。歌もそれなりだし、踊りは基本も抑えている。さすがは貴族ってところね。きっと幼いうちから、最低限の教育はされているんでしょう。
……なんだけど、心が全然ダメなのよ。
自分たちが目立つことばかり考えて、勝手な動きしたり。曲の中で、まったく関係ないところで前に出てきてウィンクした時は唖然としたわ。
しかも、貴族の子供たち以外は、すべて彼らの引き立て役になっている。グループでもなんでもないのよ。
貴族だからもてはやされるなんていう厳しい現実、誰が見て喜ぶの?
もちろん、見た目がいい子は最初に目につく。好きだの嫌いだのは見る人の自由よ。
でもグループなんだから、その子を通してでも、最後はみんなを好きになって欲しいってことなの。
これは乙女隊で学んだこと。
キョンちゃんが一番騒がしいんで最初に目が行くけど、徐々にチーちゃんのしっかりしたお姉さん振りとか、エリちゃんのドジなとことか不思議なとことかに興味を持ってもらえる。
誰か一人が主人公というわけじゃないの。
そして、そんなバラバラな性格の娘が「乙女隊で一緒になって楽しいステージをしたい」という目標に向かって、全員で頑張るから、みんなが応援してくれるのよ。
依頼された二つのグループは、最初は人気が出ても、どうしたって続かないのは目に見えている。
解散しそうなグループは、どうしたってダメ。
辛いことを乗り越えられない。乗り越えていくという風景すら見せられない。
しかも、ステージまで一週間もないのだという。こんなことを一から教えたり、身につけさせたりする時間は到底ない。
「どうです、いいステージじゃないですか?」
デビューさせたいと言ってきたレストランのマスターが話しかけてきた。
「貴族だったら職にあぶれることはないんで、いいんじゃないかしら」
あたしは少し腹が立って、言ってしまった。
Yっ娘のアリスちゃんなんて親を養うために参加している。一家を背負ってると言ってもいい。どこでも寝れるマイちゃんだって、いや、他の子たちだって、決して裕福な家の娘じゃない。
アイドルを、舐めるな。
だが、どう言っても仕方がないと思ったので、それ以上は口を出さなかった。
ゴードンレストランプロデュースという名前が付けられ、デビューステージが行われた。組織票があったかなかったかわからないが、人気投票では上位に食い込む。しかしその後2回ほどステージをやったが人気は落ちていき、あえなく二つとも空中分解した。
でも、これも全て、あたしのせいよ。
今のままじゃいけない。残ったYっ娘たちだって、あたしがなんとかしてやらなきゃならない。こんなに頑張ってるみんなを、責任を持って、精一杯輝かせてあげなきゃいけない!
だが、そんなことを思っていた最中に、最悪な事態が訪れた。
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