第66話 ワールドツアー!
最初はメヒスキの町から。
出演順は今まで通り。これはツアーを通して、全て同じで行く。
ガザンド邸は人で溢れかえっていた。
外からでも聞こえるんじゃないかということで、チケットが取れなかった人も大勢まわりにいる。ここぞとばかりに屋台などまで出ており、お祭りのようだ。
お客さんは色んなところから駆けつけてきてるみたい。
乙女隊が最初に「みなさんどこからいらっしゃいましたかー?」なんて聞いてた。
「メヒスキの方~?」
ガザンドさんが手を回したので、メヒスキの全員が来ている。人数が一番多いようだ。
「ルネボレー王国のひと~!」
ゴードンレストランは人数が限られているので、チケットが取れなかった人がこちらに来ているみたい。また、王国内の他の町から来たという人もいた。
「そのほかの方~?」
マルオリ共和国からも来ているらしい。きっとフェルドさんに聞いたんでしょうね。
明らかに人とは違うピクシーが心配だったが、裏で誰かが操作しているオモチャだと思われたようだった。後で聞いた話だが、動きがかわいいので、特に子供たちの間でかなりの話題になったようだ。
そして、一番の心配は、レイナ。
……やっぱり、出だしで失敗した。
リハーサルでは全く問題ないんだけど、本番だとどうしてもダメ。
今回は、あたしがすかさず飛んでって、一緒に歌うことにした。
どうも負のスパイラルから抜け出せなくなっちゃったみたい。
Yっ娘の誰かをバックで踊らせたら、レイナの不安がちょっとでも減るかなとも思ったけど、さすがにまだYっ娘じゃ誰一人として役不足。
ステージを降りたら、レイナは床にうずくまるようにして声を上げて泣いてた……。あたしが声を掛けると、涙を拭いて「もう大丈夫です。申し訳ありませんでした」と抑揚なく言い、その場から立ち去った。
Yっ娘の面々もこの様子を心配そうに見ていた。
ん、でもあの子、ニヤニヤしてない? 影で良く見えなかったので、じっと目を凝らしたんだけど、今はそんな表情はしていない。念のため呼んでみたんだけど、真面目そうな顔をしてた。
こういう先輩の姿を見せるのって、どうなんだろうなぁ。
次回は最初からあたしも一緒に出ようかしら……。
でも、ここは自分で乗り切らなきゃだめとも思うし。レイナもきっと、それをわかっていてくれるはずよ、今までやってきたんだから。きっと、冷静に応対したのも、そのせいよ。
うん、そう思いたい……。
コンサート自体は、レイナのトラブルはあったが、全体的には成功したと言って良いだろう。
拍手と喝采。
歌い手たち、ハンサムボーイズ、そしてゴードン&カンパニーは、また新たな賞賛を得ることが出来た。
まだ初日だが、あたしはこれからのツアーの成功を確認したわ。
思った通り、その後のツアーはどこも上手く行った。
心配していたレイナも、その後は立ち直ったようで、楽しいステージを披露してくれた。
魔族は叫び続け、巨大樹はスタートから光り、獣人たちは熱狂した。
トータ族は、国の再出発の象徴として涙を流して迎え入れてくれた。
深海の国でもきちんと演奏が出来たの。ガリアさん、本当にありがとう。
エルフは人族との新たな関係を、素直に喜んでくれた。
その間、ひとつ面白いことも起きていた。
ツアーが終わってしまったことで、魔族たちがすっかり落ち込んでしまったという。
「畑仕事にも身が入らないヤツが一杯いるんだぁ」
プリンシペさんからそのように相談を受けた。特に魔王が重症らしい……。
だったらもう一回ステージをやろうかと言ったが、何度やっても同じかも知れないと言われてしまった。
そこで、色々と悩んだ末に、例の石板を使って録音したものを配ることに。
これで、聞いてもらいながら、畑仕事が出来るわ。
困ったのが、こちらの世界では、歌詞はあるが歌のタイトルがないのよね。何の歌が入ってるかの判断がつかなくなるので、慌ててタイトルを付けなきゃならない。
あたしの書いた歌詞ならいいんだけど、それ以外のは誰が作ったのかさえわからないの。今生きている人とも限らないし。タイトルを付けてくれと頼む相手がわからないのよ。
そこで仕方なく、あたしたちのオリジナル曲だけに絞って録音することにした。
この時ゴードンさんがそれに目をつけ、人間界でも売り出そうと言ったの。
再生する時に少しずつ魔力を入れ込んでくれれば、魔族ならかなり長い期間、聞いてもらえることが出来るんだけど、人間だとそうはいかない。
もっとも魔族でも、永久というわけにはいかないようなんだけど。
ガリアさんにもお願いしてみたんだけど、これだけはどうにもならなかったみたい。
でも、精一杯魔力を入れることで、20回くらいは聞けるよう。
それでもいいじゃないかということで、発売することになった。
もっとも量産するには延々とコピー作業しなきゃならない。
そしたら、ピクシーたちが、魔力の高さを活かしてやってくれることになった。
これも今までのお礼だという。
さらに言うと、コピー作業を行うことでも『いたずら』になるようだった。
録音の仕方も教えたんだけど、もしかしたらあたしよりも出来がいいかもしれない。
こうして『ピクシー・ミュージック』が、ゴードン&カンパニーに加わった。
もっとも、たまに『いたずら』が入るので、もともとない音が裏で聞こえることがあるようだけど……。
そして今。
ゴードンレストラン。
ツアーの最後の場所だ。
狭い部屋に大勢の人がひしめき合っている。
今日はもう、レストランとしての機能はなしにして、単にステージのみ。
テーブルをすべて取っ払って椅子だけを並べる。
乙女隊、レイナ、メイシャ、そして最後にあたし。
ここまで10か所のツアーを経て、歌い手もハンサムボーイズも、みんな自信を持っていた。
一分の隙もない、完璧なステージ。
……うん、完璧というと王立楽団に申し訳ないわね。
あたしたちが出来うる限りの、楽しいコンサート。
無垢で、一途で、初々しいステージ。
石板を売ったためだろう。
オリジナルの曲でも、大合唱が起きた。
Yっ娘の面々も、きっと、最初にメヒスキでやったのを見た時との違いに気づいているはず。人は成長していけるんだってこと、しっかり目に焼き付行けておいてね。
そう!
見ている人に夢を与えるステージ!!
あたしたちは、確かにここに立って、変わり続けていく時間の中に名を刻んだ。
あたしたちが信じた場所。
あたしたちが願った世界。
なんとかなる。絶対に大丈夫だよ!
自分を幸せにできるのは、自分しかない!
そんな言葉をいつも口にしながら、必死に歯を食いしばったリハーサル。
そしてステージ!!
ゴードン&カンパニーによる、まさに世界を股にかけた挑戦の第一幕は、盛大な拍手と涙、そして熱狂によってカーテンコールを迎えた。
これにて第5章「世界」完結です。
次回から、最終章「天国への階段」に突入いたしまします。
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