第64話 歌い手さんオーディションは辛いです
ワールドツアーに向けての準備をしている間、歌い手さんのオーディションを行うことになった。
前にバックバンドのオーディションをやった時は、アンディさんの件もあっていきなりほとんどの人が辞退するような流れになっちゃったけど、今回はその心配は少なそうね。
どんな才能に出会えるかしら。
とにかく楽しみにしてたの。
オーディションには、ここ首都ルネボレーだけじゃなく、どこで聞きつけたか、国中の女の子が集まってきた。かなりの人数だ。200人くらいいそう。
一応、年齢は20歳までにしたけど、どう見ても超えてるおばさんもいるようね。まぁいいや。
……と思ったら、メイシャが年齢を理由に帰らせていた。後で訊いたら、規定を守らない人がいると他の人から文句が出ると言った。そういうものなのね。
さすがに他の国はいないよう。そこまで知名度はないもの。
親が同伴してきているものや、逆にひとりで来ている、ちょっと不良っぽい女の子もいる。
うん、なんでもいいじゃない。
来た女の子たちに、メイシャがまず説明する。
「本日は大勢の方にお越しいただき、まことにありがとうございました。ゴードンレストランでのステージで歌っていただく女の子を、これからオーディションさせていただきます。
募集の際に書かれていたように、最初は歌とダンスと特技を披露していただき、その後で面接をします。また、面接までの待ち時間の間に、ペーパーテストを行わせていただきます。
最後の面接で合格者がいましたらその場で決定となります。
人数が多く、お時間がかかってしまいそうですが、どうぞよろしくお願いいたします」
メイシャから一つだけ、あたしに指示があった。
ゴードンレストランは、飲食店である。応募してきた人はお客さんかもしれない。
不快な思いをさせてしまうと、レストランのお客さんを減らすことになる。
あくまで、丁重に扱って欲しいとのことだった。確かにそのとおりかも。
メイシャはお店の店員を雇う時にも、気をつけているらしい。
そこで、メイシャがメインで従業員を雇う時のように進めてもらうことにした。
あたしは黙っておこうっと。
まずは、ハンサムボーイズの演奏に合わせて、歌ってもらう。
ほとんどの子は、そんなに上手くない。まぁ、歌についてはそこまで期待していなかったもの。でも、予想外に3人も、それなりに上手な娘がいた。
顔はピカイチってわけじゃないけど、そこそこ。
いいんじゃないかな、この子たちは。
歌はダメだけど、ダンスが出来る子が2人ほど。もちろん、まだまだだけどね。
でも、これも、いいんじゃないかな。
歌とダンスの時に、ものすごく笑顔の可愛い女の子がいた。見てると、こっちまで思わず微笑みたくなるほど。
……でもねぇ、歌が全く音程もリズムも取れないし、ダンスも、なんかクネクネしてるだけなのよ。ダメかなぁ、この子は。
特技の番になったんだけど、最初は面白かったの。
体が柔らかいですと言って、いきなりエビぞりしちゃったり、パッと見ただけで体重が分かりますと言って、本当に当てちゃったり。
耳と鼻を同時に動かせますって娘なんて、思わず笑いそうになるのもあってね。
トータ姫より高度な変顔だったわ。
それから、目をつぶったらどこでも寝られますなんて子もいてね。いや、これ、歌い手はかなり有利なの。前世で、移動のわずかな間にでも寝なきゃいけないことがあってね。もちろん、段々慣れてくると出来るようになったけども。
でも段々、苦しくなってきちゃった……。
最初の世界で、特技は何ですかって言われるの、ほんと辛かったのよ。
特に言えるような特技もないし。
同じような子なのかなぁ。でもあたしの前世より、アピール力はある。
猫の言葉が話せますとか……。獣人と仲良くなったから、本当に話せるか試してみてもいいんだけど、多分ウソ。
乙女隊の振り付けを完璧に踊れます、っていう子に躍らせたんだけど全然ダメ。パッと見は似てるけど、肝心な基本的なところが違う。当たり前なんだけどね。1回しか見てないはずだし。
生きていることが特技ですなんて言った子もいたわ。うん、気持ちはわかる。
いや、そういうのの方がまだマシ。
計算がこんなに早くできますとか、なんとかいうスポーツが得意で何年もずっとやってましたとか。
しかもね、きちんと人との繋がりを大事にしてます~とか、継続する忍耐力があります~とか、ちゃんと自己アピールまで出来てる。
なんか会社みたい。
思い出しちゃって、しんどくなっちゃった。
もっとしんどかったのは面接……。
まさに、ソレって感じで、辛くて辛くて。口にするのもしんどいわ。
ごめんなさい、わたし、面接受けたら絶対に受からない。
ちなみにペーパーテストをやったのには理由があるの。メイシャがお店の面接でもやってることらしいのだけど、まぁ、そのテストの問題が難しいったらありゃしない。
あたしはもちろん、誰も解けないんじゃないかって問題ばっかり。
でも、テストみたいに点数が出るってのがミソなんだって。
どうしても落とさなきゃならない人がいる。でも、決して歌やダンスとか、特に面接で落ちたわけじゃない。テストの点数が悪かったから落ちたのよって言える。
それならば仕方ないよねって、相手も思ってくれるらしいの。つまり、落とされた相手に文句を言わせないってことらしいわ。さすがメイシャね。
案の定、テストは全員100点満点でほとんどの人が10点もいかなかったくらい。
面接が終わるごとに、ゴードンさん、メイシャとわたしで、すぐに取りたいかどうかの判断を行う。誰も取りたいと思わなかった子は、その場で帰ってもらうことに。
面白いのがね、3人とも、何人かを除いてバラバラだったってこと。
わたしはもう、歌の3人とダンスの2人。そしてすぐ寝られるって女の子。
メイシャは、歌の3人のうちの2人と忍耐力があると言った子を選んでた。
ゴードンさんは歌の上手い子3人は私と一緒。それと、可愛いかったからっていう2人。まぁ、確かにあの二人は飛びぬけて可愛かったかもね。
あらかじめ10人前後かしらねって話してたんだけど、3人のうち誰かが選んだ子ならいいんじゃないってことになった。
歌が上手かった子3人。
ダンスが踊れた子2人。
すぐ寝られる子。
忍耐強い子。
可愛い子2人。
合計で9人。だいたい考えてた人数と同じになったわ。
はぁ……。演奏と違って、歌い手のオーディションはどうにも難しい。
なんてったって、昔を思い出して辛いし。
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