第63話 ワールドツアー計画
ゴードンレストランでの第2回目のステージの日が近づいてきた。
みんな、リハーサルに熱が入っている。
ピクシーが加入したけど、性別というものがないのね。『ボーイズ』ではないということで、『トリック・エンジェルズ』という名前にしたわ。
でも、これじゃ長いっていうことで、TAと略すことにして、バックバンド名は『ハンサムボーイズ with TA』となったの。
うーん、この子たちかわいい。キャハキャハ言ってる。
それだけじゃないの。
パストマスはとても魔力を消費する。
最強の戦闘種族である魔族よりも、はるかに高い魔法能力を持つピクシーは、このパストマスの演奏はぴったり。
今まで人族では出せなかった音や演奏が出来るようで、みんながびっくりしてた。
そんな時、ゴードンさんとヒロさんが私に相談があると言ってきた。今まで、そういう時はほとんどいいことがない。なにか困りごとがまた増えるのかなと思ったら、そういうわけではなかった。
いや、困りごとなのかな、もしかしたら……。
話としては、ヒロダーや、ヒロさんが作った楽器を売り出そうということだ。周りのレストランでもステージが行われ、また、今まで聞くだけで楽器を触ったことのない人が、やりたいと言い出しているらしい。
ヒロダーは唯一無二だけど、楽器についても、そこらで手に入るようなものは高いか、粗悪なものばかりなので、安くてしっかりとした量産品を作りたいと言う。
販売はゴードンさんが行う。ヒロさんは演奏もあるので、あくまで設計で、品質の管理は行うものの、基本的にはドワーフたちに作らせると言った。
競合相手に手を貸すのはどうなのかしらと思ったけども、ゴードンさんもヒロさんも、周りのステージを見てて、その演奏力の低さなどを可哀そうだと思ったらしい。
もちろん売ることでの収益も見込める。そこはメイシャがしっかりやるそうだ。
もうメイシャには話が通ってたのね。だったらそっちは大丈夫。
他の理由として、楽器が身近なものになることで、観客の層が増え、あたしたちのステージにも少なからず貢献できるのではないか、とも言ってた。
確かに、そうかもしれないわ。
ここまで来れたのもあたしのお陰ってことで、準備が出来たらきちんと話を通したかったという。
「もしあたしがダメって言ったらどうするの?」
「その時はやめようって決めてました。でも……」
「でも?」
「絶対にダメとは言わないと思ってましたよ」
うん、まぁ、そうだけどね……。
こうしてゴードンレストランは、経営の多角化として楽器を扱うようになり、社名を『ゴードン&カンパニー』と変えることになった。
もちろん、将来的にはステージング事業を展開していく予定だ。
あたしに、他のレストラン・ステージのコンサルタントもやったらどうかと言われた。他の人は、ゴードンさんがステージ構成などを考えていると思っていたようで、問い合わせが殺到していたらしい。
もちろん、ゴードンさんにわかるわけがない。
自分のところで手一杯だからとても他のところまでは手が回らないけども、ノウハウなどを話すだけならいいよ、とは言っておいた。
せっかく歌い手になろうと思ってる若い子たちが、良く知らない人のせいで潰されるのは勿体ないわ。きちんとアイドル魂を教えてあげた方がいいとは思った。
あ、でも。
そういうことなら、あたしのところでもっと、歌い手さんを増やしてもいいんじゃない? このあと、ステージも出来るんだし。
そう言ったら、ゴードンさんは、ぜひやろうと言ってくれた。さっそく、オーディションの告知を出してくれるらしい。
さらには、合格者が共同で暮らせるような部屋も何部屋か貸りてくれる約束もしてくれた。それだけじゃなく、今建設中の建物を急遽設計変更して、4階にレッスン場を2部屋、5階と6階に宿泊できるような部屋も作ってくれることになった。
一気に6階建てのビルになっちゃったわ。
もっとも、完成までの期間は伸びたんだけどね。
それと……。
今わたしは、人族はもちろん、トータ族、魔族、ピクシー族など、世界中にネットワークが広がっている。
レストランでの2回目のステージだけで、またしばらく出来なくなるっていうのも、つまらない。
魔族やピクシーでの演奏も好評だったし、色んなところでやるのもいいじゃない! 経験不足の歌い手さんの、いいトレーニングにもなりそうだし。
ほかの人族の国では、どこまで出来るかわからないけど、少なくともメヒスキなら、ガザンドさんの家で出来るかもしれないわね。最近行ってないけど、モンスターも襲ってこなくなったろうから、だいぶ落ち着いても来てるんじゃないかしら。
この提案に、ゴードンさんは大乗り気だった。
ただしメイシャが、無料っていうのはちょっと……と言った。たしかに言う通り。人族以外には、お金でないものを支払ってもらう必要があるわね。その交渉もしないとだわ。わかった、任せて!
よし!
早速、いくつか当たってみよう。
◆◆◆◆◆
こうして、いくつかの場所でステージを行うことが決まった。
ゴードンレストラン。
メヒスキでは、ガザンドさんの家。
前のことがあったんでドキドキしながら行ってみたんだけど、なんてことない。誰もあの時の英雄と私が、同じ人物だなんて思わないみたい。
女神様は神格化されちゃってて、実物とは違う姿になっちゃってるみたいなの。お陰で話は早かったけど。
ゴードンレストランのニュースはすでに伝わってたしね。
トータ族の新しい国。
王宮でやるそうだ。亀たちには今までもお店を手伝ってくれているので、お代はなし。これからもよろしくね。
魔族の体育館。
魔族からは農作物をステージ代にしてもらう。
ピクシーの海の上。
ステージ代は『いたずら』で地上の花を一杯咲かせてくれること。あたしたちに直接は関係ないけども、巡り巡って、ってことでいいかなと。世界を荒らしてしまったお詫びもあるし、世界樹にももっと元気になって欲しいもの。
トレントや獣人たち。
初の野外ステージね。森の果物や木の実などをくれるそうだ。
ドワーフの町。
報酬は楽器の制作とバーターにしてもらった。
ピクシーの演奏の話が魔族経由で伝わって、繋がりのあるエルフという高い知能を持つ、耳の長い種族のところにも行くことになったの。
このエルフ、とても音楽好きみたい。自分たちでも演奏するそうで、楽隊もある。聞かせてもらったんだけど、相当うまかったわ。
エルフとは一緒に演奏しよう、ということになってるので、どこかでリハーサルしにみんなを連れて行かないとね。
ちなみに報酬は、なんと! 宝石で支払ってくれるらしいわ。
それだけじゃない。
トータ王族が復活したという話を聞いて、いくつかの海の部族が挨拶に来ていたらしい。そうして繋がった種族のところへも、三か所ほど行くことになった。報酬としては、海の幸をくれるという
深海での演奏もあるので、ガリアさんは大忙しのよう。なんでも、海の中でも演奏できるようにしてくれるらしいわ。かなり作るのが大変なようだけど。
マルオリ共和国に行ったフェルドさんのところにも行ってみた。
奥さんと二人で、小さいけども、ちゃんとお店をやってたわ。
しかも、人気みたい。
でも二人は、気を緩めずにやっていきますと言ってくれた。
ただ、お店はあまりにも小さくて、演奏できるような大きさはなかったの。
「いつか大きくして、みんなが演奏できるような場所にする」
フェルドさんは、そう約束してくれたわ。
こうして、ワールドツアーへ向けて、さらにみんなのリハーサルに熱が入ることになった。
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