第56話 またまた困りごと
トレントとの出逢いは、わたしの「世界」を広げてくれたわ。
国にとっての王のように、地上のモンスターたちのボスはトレントだったらしい。
オオカミを私が倒したときは、親分として助けに来たんだって。
謝っただけで許してくれたのは、先に手を出したのがオオカミの方だったから。
オオカミの一族の首長にも会ったけど、あの時は若い奴が突っ走っちゃって悪かったと言われた。見た目と違って、結構、話が通じる。もう互いに手を出さないとして、仲良くなったけど、モフモフが気持ちよくて長居してしまったほど。
オオカミ達の『犬族』だけではない。
獅子や虎などの『猫族』や『長耳族』など世界には数限りなく種族がいる。とても全てには会いきれそうになかった。
比較的フレンドリーな種族をトレントには紹介されたわ。ただ、猫族は、たしかにフレンドリーだったけども、少々、自分語りが多すぎて、会話にならないのがつらい。モフモフだけはしっかりさせてもらったけども。
獣人というが、昆虫族も含まれるそうだ。羽根のないものが『獣人』となっているらしい。つまり、羽根のあるものは、獣人には含まれないという。ややこしい。
これだけ種族がいるのであれば、地上の環境、つまり人間が獣たちを駆逐しているという話はそこまでではないかと思ったが、どうもそうではないようだった。
『毛サイ族』という種族がいたが、それは数年前に絶滅した。ジュゲンさんに知っているかと聞くと、子供の頃は結構いたと教えてくれた。
「サイのような体つきで、一本頭にツノが生えてるんだが、全身が白い毛で覆われているんじゃ。なつかしいのぉ」
頭に一本のツノ。全身に白い毛。それって、まさか……、
――ユニコーン?!
その毛は、軽くて暖かく、しかも丈夫なので、ある時期に乱獲されたという。城の演奏会場に敷き詰められている毛は、これだそうだ。
お互いに話が通じるとわかれば、毛ぐらい貰えたのだろうになとも思ったが、そんな簡単な話ではないらしい。人族と抗争を繰り広げている種族もいるとのことなので、あまり余計なことはせんでくれ、とトレントの王からは言われてしまった。
トレントの王は、人族は最近、とはいえ何百年単位のことだそうだが、急に増えてきたと言っていた。人族は体を覆う毛も少なく、非力、貧弱で下等とされ、しかもコミュニケーション能力が低かったために、獣人族に与していたころは奴隷のように扱われていたらしい。その報いが今我々に来ているのでは、とも言った。
知り合いが増えていくのは、とっても嬉しい。
中でも、『ドワーフ族』と知り合えたのは、とても大きな収穫だったの。
トレントと一緒に出てきた巨人。これが『ドワーフ族』らしいのね。
背の高さは1センチ程度から20メートル近いものまで。特徴としては、全身の毛が全てクルクルしているらしい。いわゆる天然パーマっていうことかしら。
人族との子供は、体の一部にその痕跡が残っているんだって。
手先が器用で、とっても好奇心旺盛で、頭がいいのよ。300年くらいまで生きるっていうんで、時間の許す限りで色んな知識と技能を身につけることが生き甲斐らしい。
あまり背の高い者は遠慮してもらったんだけど、何人かレストランに招待もしたの。
ガリアさんという『若い』40歳くらいの小柄なドワーフがヒロさんと意気投合したようで、『ヒロダー1号』の改良を、それからしばらくやってたみたい。
『ヒロダー二号 powered by ドワーフ』という名前はもうどうでもしてくれませなんだけど、魔力の消費量が格段に減って、さらに音量も自在にコントロールできるようになった。
全ての楽器の音を、その楽器からではなく、一旦『ヒロダー二号』に送ってから、全体の音量を調整できる。特にボーカルは、ささやき声なども、今まで以上に他とバランスが取れるようになるので、曲の幅が広がったわ。
今建設中の地下ステージに置こうと思っている。
もちろん、何人かステージの設計も手伝ってくれることになったわ。
一気に進んだみたいね。
こんな風にして、あっちゃこっちゃと飛び回るのは大変だけど、楽しいし良いことが多い。朝は亀の送り迎え、夜は歌もうたってるし、毎日ハードな生活だけどもね。
そうそう、歌っていえば、私以外はステージの練習ばっかりで、ちょっとモチベーションが下がっちゃってるみたい。
メイシャはヘルを始めて、段々と上達しているから、バンドなしで今度、出しても良いかもしれないなとは思ってるけど。
ちなみに、レイナも少し練習したようだけど、やめちゃった。人差し指で全部の弦を押さえるのが、出来ないみたい。乙女隊は、手の形のせいで、全くダメ。
どうにかしないとねぇ。はぁ……。
で、ヘルなんだけど、もっと深刻なことがあるの。
それは、フェルドさんのこと……。
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