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第54話 大戦の歴史

 突然の風に煽られ、バランスを崩したバイクは、木の中へ落ちていく。

 私は目を閉じて、プリンシペさんにしがみついた。


「キャっ!」


 ボキッ、ミシっ、バリバリ、キャハハ、ボキボキっ、ガンっ、ベリベリっ!


 ようやく、落下が止まった。

 ゆっくりと目を開ける。

 腕を目いっぱい伸ばしても届きそうにないほどの木の幹が見えた。

 私たちはどうやら、木の間を枝を折りながら落ちたようだ。


「これ見て!」


 私たちの足元には、大量のピクシーがいた。

 折り重なったピクシーがクッションの代わりになってくれたようだ。

 枝で擦りむいて傷だらけだが、みんな命には別条なさそう。


 ここは海に浮かぶ、小さな島のようだった。

 一本の巨大な木だけが悠然と聳え立っている。木の陰で薄暗い。

 何本もの太く丸い根が、まるで足のように顔を出していた。


 改めて地面を見て驚く。

 鮮やかな色とりどりのピクシーが足元にいるが、そのどれもが息をしているようには思えなかった。

 すべて、亡骸である。


「こ、これって?!」

「死んだピクシーだぁ。徐々に土に還るだども、最近は多すぎて、こうやってそのまま積もってってるだぁよ。おかげで助かっただけんども」


「キャハッハーッ、キャキャキャッ」


 一匹の赤いピクシーが、笑いながら私たちの傍に近づいてきた。


「いきなり襲ってごめんって言ってます」とジャンさん。


「なんで言葉、わかるだぁ?」

 そうプリンシペさんが言うや否や、大きな炎が私たち目掛けて飛んできた。


「ウォーター!」


 あたしは火の玉に向けて、水の魔法を唱えた。ジュっと音がして、炎が消える。


「キャハッ、キャハハハハハ」


「お腹いっぱいになったわ、ですって」とトータ姫。

「さっきプリンシペさんは、言葉が通じないって言ってたけど、姫は言葉、わかるの?」

「キャハ文って言ってね、キャ、ハ、ハッ、ハーを組み合わせて文章を作るの。トータ族で戦争の時に使ってた暗号よ」


 いわゆる、モールス信号のようなもの?


「驚いただぁ、80億年の魔族の歴史ではじめて知った、ピクシーの言葉だぁ!」

「でもどうして、これがピクシーの言葉になったのかしら?」

「もしかしたら……」とトータ姫が話し始めた。


 遥かな昔、トータ族、すなわち『海を支配する民族』と、『空を支配する民族』との大戦が起きたという。戦争は何百年と続き、中間地点である大地は焦土と化した。

 両軍は、その民の八割を失うほどの被害を被ったらしい。


 最初は文明力に勝るトータ族が優勢だったものの、徐々に戦況が均衡していき、やがて逆転するほどにもなった。

 その原因が、それまで使用していた暗号文が解読されたことによるという。

 トータ族はそこで、新たな暗号文であるキャハ文を作り、やがて一気に『空を支配する民族』を殲滅させたそうだ。

 今ではもう使われないが、王家とそれに近い者の中では教養として習うらしい。


「その、『空を支配する民族』っていうのが、魔族のことじゃない? 殲滅させられたっていうのが生き残って、空に閉じ込められたとか?」

「違うだぁ。その戦争も記録にあるだぁが、魔族は一切、どちらにも味方しなかった、と残ってるだ」


 そうなのね。閃いたと思ったんだけど……。


「その暗号がどうやって作られたのか、全くの謎。もう、神話になっているような話なんで、どこまで本当だかわからないんだけど、『神は自らの言葉を与えた』って記述があるの」

「その神がピクシーってこと?」


 トータ姫は、歴史的な解釈としては、そうではないと言った。

 神話には続きがあり、『海を支配する者たちは、その後、感謝の証として神を助けた』という意味の記述がある。

 しばらく後に亀の部族がバラバラで争うようになる乱世の中、亀の大王と呼ばれる者が出てきて、世界を統一する。この時の、各部族が大王を助けて戦った、ということで、ここでの『神』は『大王』を指しているんだ、ということになっているらしい。


「その大王の、遠い子孫がわたし」


 そうなんだ!


 ただ、一部の学者の中には、『神』と『大王』は別物ではないかという説を唱える者がいたという。国家の根本にかかわるところなので、王家の転覆を図る反乱分子というレッテルも貼られたらしい。

 だが、トータ姫は、今こうしてピクシーがその暗号を使っていることを目の当たりにすると、あながち、ピクシーが『神』という説もありうるのかもと言った。


「そんなことはありませぬ!」とジャンさんは言い張ったが、あくまで可能性の話よと姫は言った。「だとしても、拙者は姫についていきます!」とジャンさん。

 なにやら、面倒くさそうな話になっちゃったな。ややこしくて、頭がついてかないし。


「もしかして、それが今かも知れないだ……」


 プリンシペさんは、重い口を開くかのようにボソリとつぶやいた。


「今、ピクシー、それとこの古代樹は危機に瀕してるだ」


 神話の中には、まだ起きていないことを予言して書かれているものも多くある。姫の言った『その後に神を助ける』とは、まさに今のことで、トータ族がピクシー族を『これから』助けるという予言なのではないかと言った。


 ピクシーと、この目の前に聳え立つ古代樹の関係について、プリンシペさんが教えてくれた。


 古代樹は、世界全体から養分を吸い取って大きくなるという。

 しかし、その養分が足りなくなると、ピクシーを生む。


 ピクシーは、花を咲かせる、果実を実らせるなどの『いたずら』を栄養として育つ。さきほどやった人に魔法をぶつけて驚かせる、というのもそのうちの一つらしい。見境のない奴ね……。ちなみに、魔力だけで見れば、最強の戦闘種族である魔族より数段強いという。

 この『いたずら』により、世界は豊かになり、古代樹も成長を続ける。


 だが、ピクシーは栄養が十分に取れない場合、餓死する。そしてピクシーは土に還り、古代樹は、それも養分として取り込んで自らの成長を続けるのだという。


「ピクシーがこんだけ死ぬの、世界の養分が足りないだ!」


 プリンシペさんの話に夢中になっていて気づかなかったのだが、ピクシーがあたしたちの周りを幾重にも取り囲んでいた。


「キャハッ」


 姫っ、今このピクシー、なんて言った?!


お読みいただき、ありがとうございました!


ブックマークなどなど、まことにありがとうございます。

更新の励みとなっております!


引き続きよろしくお願いいたしますm(__)m

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