第53話 ピクシーに会いに行こう!
第5章「世界」開始いたします。
私はいくつかの大きな手ごたえと、大きな一つの失敗に気づいていた。
ゴードンレストランのニュースは、一晩のうちに国中に広まった。
『あの』ジュゲンさんが弾いていたということも話題となった。
歪んだギターとベースの音も。
「あんな汚らしい音」という人もいるようだが、衝撃の方が大きかったようだ。噂を聞きつけ、どうしたら出せるのかと、レストランに問い合わせに来るギタリストも多くいた。
それら以上に、『恋』についての歌に、賛否両論が激しかった。どちらかというと、否定的な言い方が多いようね。でも、もちろん、予想通り。
おばちゃん歌手だった前の世界でも、最初はそんなもの。
わずかでも、認めてくれれば、いや、話題にでもなればこっちのものよ。
「踊りながら歌うなんて、なにが面白いんだ?」
「素人の集団に、なにが出来るんだ?」
ステージを批判する人は、口々にそう言った。
でも私はこの目で、レストランにいた人たちの姿を見ている。
彼女たちのパフォーマンスも含め、収穫は予想以上だった。
それに対して、失敗。
乙女隊はリズミックすぎるし、レイナはきっと応援したくなる。
メイシャはドラマチックすぎる。
そう、レストランという場。つまり食事をしながら観る、聴くという意味では、合わないんじゃないかなと思った。毎日はもちろんできないし。
レストランの営業の邪魔になりかねない。
次はどうしましょうと言ってきたゴードンさんに、その旨を伝えた。
ゴードンさんの決断は実に早かった。
海底の亀の国にはもう、全員の暮らす家がそろっている。寮替わりにしていた建物は、もう必要ない。
王立楽団の演奏会場を真似て、地下にステージを作る。テーブルはなく、椅子のみ。
一階は軽食なども出すカフェ。二階をメンバーたちの休憩所。三階をゴードンレストランのチェーン店をまとめる事務所に建て替えようと言ってくれた。
こういう時はメイシャに聞かなきゃ、決まらない。
ゴードンレストランの経営は順風満帆で、利益もかなり出ている。
新たに事務所として、どこか借りないといけないとは思っていたらしい。
その話を聞いて、ヒロさんが設計をやりたいと言ってきた。人間の建物の作り方にも興味があったらしい。
ただ、実際に使えるようになるには、半年くらいは少なくともかかるという。
その間、どうしていようかしらね……。
「たまには昨日みたいな風にやってもいいかな」ということで第2回のステージは一か月後に設定。
レストランの方は、しばらく一日置きぐらいで私だけが歌うことにした。
そうして、何日かが過ぎていった。
魔界とピクシーの国への通路が開く日だ。
姫はその間、幸いなことにトータス・ゴッデスに変化することはなかった。
姫とジャンさん、わたしの三人で向かう。
まず魔界に行き、魔族のみんなに挨拶して回る。
魔王に挨拶して「宴会かぁ?」と言われ、断るとまた残念がられた。
フェリペさんには今日、プレゼントがある。この日のためにヒロさんに作ってもらった上等なギターだ。前に渡したのは安物だったからね。
あの後、興味を無くしていないかが気がかりだったが、いらぬ心配のようだ。
フェリペさんは、あれから毎日時間を惜しむようにギターを触っていて、畑仕事もサボったりするほど。兄のプリンシペさんは、困ったもんだ、とぼやいていた。
そして、フェリペさんは新しいギターをとても喜んでくれたようだ。
魔王一族が畑仕事するの? と聞いたら、当然だという。
それどころか、力の強い魔王こそ、一番の働き者だそうだ。
「だからこその、魔王だぁ」と言った。
魔界にフェリペさんが残り、ピクシーの国へはプリンシペさんが同行してくれる。
入り口は魔王家の裏手だそうだ。
いよいよ時間。
前に見た黒い渦が現れる。わたしたちは、プリンシペさんのバイクに乗ったまま、飛び込んだ。
「しっかり、つかまるだ!」
プリンシペさんが叫ぶ。入った途端、バイクが大きく揺れた。姫はキャっと言って私にしがみついた。
バイクが平衡を取り戻す。ふう。空は風ひとつなく、晴れていた。
プリンシペさんが、指で下を示す。一本の巨大な木があった。海に浮かんでいるように見える。
バイクは遥か上空から、徐々にその大樹に向けて近づいていった。
「どこを探しても見つからないんだぁ」とプリンシペさんは言った。
ここへは、穴が開いたときしか行けない。世界中をすべて飛び回っても、この場所は見つからなかったという。
「別の惑星なのかしら? それとも隠してある?」
「わからないだ。なにしろ……話が通じねぇんだぁ」
「話が通じない?」
「ん、まぁ、会えばわかるだ」
魔族とピクシーとは古くから交流があったと言った。かつて何度か、ピクシーの住処が襲われたことがあり、その時には魔族が代わりに戦ったという。
「だども、おらが生まれてからは、一度もねえだがよ」
かなり古い、歴史上での話のようだ。
ピクシーは魔族の農耕の手助けをするという。
とはいえ、実際になにかをする、というわけではなく、豊作の理由がピクシーによるものと信じているだけのことらしい。
いきなり花が満開になった時など、ピクシーがいたずらしたと皆で言うそうだ。
話しているうち、葉や枝まで見えるほどに近づいてきた。
ピクシーはすぐにわかった。最初は蝶のように見えたが、人型の顔がついている。
羽根の色は赤、緑、青、水色、グラデーションのもいるわね。同じ赤でも微妙にひとつひとつ違う。
「キャハハ」
「キャハ、キャハハハ」
笑い声が聞こえるほどに近づいた。けたたましい。
「あっ、これ、んっと、そうっ! 『なんか来たけど、いたずらしちゃえ』って言ってるよ?」とトータ姫が叫ぶ。
「なるほど。無暗に近づくと、危険ですな」とジャンさんも剣に手を添えた。
「ん?」
――誰が言ってるの?
その時、突風が吹いた。
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