第49話 ハンサムボーイズ始動!
昨日の興奮がまだ冷めない。
行かなかった姫は、ヒロさんに「凄かったんですよ、凄かったんですよ」とオウムのように言われ続けて、うんざりしているようだ。
私に助けを求められたが、まぁ、あれは言葉にできないわよね。実際に聞いてみないと。
昨日、ジュゲンさん、カズくんと終わった後に食事しながら、色んなことを話した。
特別な訓練方法でもあるのかと思ったが、そういうわけではなく、ただ、ひたすら努力なのだと。ひゃあ。声を上げて驚いちゃった。
「でもなぁ、決して楽しくは聞こえないじゃろう」
――それ、それ。そうなの!
「わしゃな、ずーっと長年あそこでやってきたが、楽しいと感じたことは一度もなかったんじゃよ。まぁ、出来ないことが出来るようになった時は、嬉しかったけどもな」
「このバンドはどう?」
「めっちゃめちゃ、楽しいのじゃ!」
そう言って笑ってくれた。
王立楽団は確かに凄い。桁外れだ。
聞いていても、まさに畏怖、そう、偉大過ぎて恐れおののいてしまいそう。
私たちがやりたいのは、そうじゃなくて、とにかく楽しいこと、そして聞いてくれる人たちに楽しいって思わせること。
終わった後に身体を震えながら拍手してもらうのではなく、思わず踊りだしながら「Yeah!」と叫んでもらうこと!
ジュゲンさんも同じだと言った。
カズくんも、自分たちの演奏を聴いて、それが出来ると確信したと言ってくれた。
良かった、ジュゲンさん、カズくんも同じ気持ちで!
もっとも帰り際にジュゲンさんにお尻を触られて、思わず「今度やったら燃やすわよ!」と言ってしまったけども。
今日、みんなにも伝えて、理解してもらった。
さあ、ハンサムボーイズ始動よ!
まずは繰り返し、予定している曲を演奏。録音して聞き直す。
リズムのこと、アレンジのこと、そして楽曲のこと。
演奏曲は、ほぼ決まった。
演奏順は、亀三人娘、レイナ、メイシャ、私の順。
最後をメイシャにしようかなとも思ったんだけど、先生の前は困りますと言われてしまった。
レイナは、親への感謝を歌った定番曲から三つ。
メイシャは神話からの曲と、定番の亡くなった夫を思う歌、そしてもちろん、新曲も披露する。
私はトリなので、神話からの定番二曲、それと魔族に披露した歌でいいだろう。
ここで問題が三つあった。
一つ目は亀三人娘だが、さすがにグループ名をつけてやりたいなと。まぁ、これは大したことではない。
二つ目は、アンディさんの曲が、二つ含まれていることだ。一つは私が魔族に披露した歌。ただ、こっちは変えてもいい。だが、アンディさんに作ってもらったリズミカルな曲は、どうしても姫三人娘には歌ってほしかった。
そして最後の三つ目。三人組に歌ってほしい曲が、あと一曲、どうしても決まらないのだ。ここも家族への愛の歌を歌わせてもいいのだろうが、グループのイメージとして、もう少し、底抜けに明るい感じにしたい。
「なーに悩んじょる?」
ある日、ジュゲンさんが話しかけてきた。よっぽど困った顔をしていたんだろう。
「アンディさんという人が昔ここにいて、すごいいい曲を作ってくれたんですけど。喧嘩して辞めちゃったんですよ」
「ああ、その話は聞いておる。しかし、いま何と言ったかなその者」
「アンディさんです」
「アンディ……、あのアンディかのぉ。わしの最後の生徒に、そういう名前の子供がおったんじゃが」
ジュゲンさんも、王立楽団に入る前はピアノの教師をしていたという。年齢を考えると、同じ人物かもしれないと言った。まぁ、アンディという名前はどこにでもいるのだけど。
とにかく当たってみるのも良いかもしれないと、ジュゲンさんを連れて、アンディさんの元を訪ねることにした。
アンディさんの家には、戻って欲しいと頼みに何度も行った。だが、すべて断られてからは、しばらく訪れていなかった。
案の定、私が扉越しに、話を聞いてくれと声を掛けても「帰ってくれ」の一点張りだった。
「のぉ、そなたアンディというそうじゃが、顔を見せてはもらえんかの」
ジュゲンさんの言葉に、扉が開いた。
「もしかして、せ……先生ですか?」
「おお、やっぱり、あのアンディくんか。達者にしておったかの?」
――おおっ、ビンゴ!?
「あ、いえいえ、先生とは初対面ですが、ジュゲン先生ですよね」
「ふむ、確かにわしはジュゲンと言うがのぉ」
あら、アンディでも、アンディ違いだったわ。普通に、先生と呼ばれただけなのね。
「ひとつ、お願いがあってここに来たのじゃがな」
「それはもう、なんなりと! あ、いえ、ですが、この者たちと一緒に演奏するのだけはどうしてもお断りしますが……」
そこまでイヤですか、そうですか。ふんっ!
「うーむ、楽しいのじゃがのぉ……。じゃが、今回のお願いはそれではない。曲のことなんだがな」
「曲、ですか?」
「ふむ、そなたの作った曲、わしも気に入っておってのぉ、ぜひこの者たちと一緒にやりたいと思ってるのじゃよ」
アンディさんは驚いたように目をパチパチさせていた。
「ジュゲン先生が王立楽団の演奏会に、ゴードンレストランの者と一緒に現れた、という噂がありましたが、本当だったのですね。信じられません」
「その通りじゃ。これからバンドを組むことになっちょる」
「バ……バンドって。まさか先生が?」
「変ではなかろう、楽しいぞ!」
アンディさんはその後、曲を使わせてほしいとの依頼に、「先生が仰るなら、誰が逆らえますか!」と言った。
ここからは私の出番だ。
一回演奏するごとに、一定額を支払うという約束をした。もちろん、メイシャと打ち合わせ済みである。メイシャもこの曲をぜひ聴きたいと言ってくれたので、二つ返事で同意してくれた。
カズくんと私にも作詞と作曲した分は支払うと言われた。最初は二人とも断ったのだが、他のメンバーにも同じようにしたいとのことを聞いて、受けることにした。フェルドさんが喜んで、「何曲でも作りますよー!」と張り切ったのは言うまでもない。
アンディさんからは一つだけ条件が出た。
作曲した人が、私だと分からなくして欲しいと。
どうしても自分だと分かってしまうのはイヤらしい。
仕方がない。アンディさんの文字の前に、ピアノ、つまりこちらでいうカサーマの頭文字、「C」を頭につけ、「Candy」という名前にした。
これからも、もし依頼したら引き受けてくれるかと聞いたが、それは無理だと断られた。
アンディさんが本当にジュゲンさんの弟子だったら、全部引き受けてくれたかもなぁと、ちょっとがっかりしたが、まぁ、仕方ない。
こうして、第二の問題はクリアされた。
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