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第48話 演奏会、開演です

「あそこにいるの、ダンテ君じゃない?」


 ダンテ君はステージの最奥部、右端にいた。背が低いこともあってか、前の人の陰に隠れて見にくい位置だ。小さな太鼓を肩から下げていた。いつも通りの無表情で、微動だにしない。わたしが見つけて、ヒロさんに小声で伝えた。


「お、そうです、そうです! うはぁ、立派っすねー!」


 立派というか、タキシードに『着られている』感じだけどもね。


「あっしの師匠っすよ! ほらほら、あそこにいる人!」


 思いっ切り大声で叫んで、亀三人娘に揃ってたしなめられていた。



 前から三列目まで、五十人ほどのバイオリン奏者がいる。

 小さなバイオリンを持つ者の大きなグループが左右、そして6人ほどが真ん中付近に2グループずつ。

 中くらいの大きさのバイオリンは、外から一つ内側の左右に。そして大き目のバイオリンを抱えている者たちが中央に固まっていた。


 その一つ後ろの列。

 右側からピアノ、次に、これはいわゆる鉄琴かな? その左は楽器を持っていない人たちが何人も並んでいる。そしてシンセサイザーがあり、一番左にギター二人。


 さらに後ろには、いわゆる管楽器が並んでいるが、中央はベースだ。

 ダンテ君に顔つきが似てるなぁ。天才といわれてる、例の弟くんかしら。


 最後列には太鼓やシンバルなどのドラム類。


 総勢、100人近い。大編成だ。

 ダンテ君だけではなかった。全員が無表情で、全く身動きしていない。


 最初の曲はストリングスの白玉コード、すなわちロングトーンで始まった。徐々に音量が大きくなっていく。


 ストリングは魔法を使わないで演奏するという。この大人数は、そのためなのだろう。

 しっかし、この人たち、タキシードの上からでもわかるほど、筋肉ムキムキなのよね。恐らく、とんでもない力で演奏しているんじゃないかしら。まるで戦士のよう。


 ピアノやベースなどは、魔法で音を大きくできる。みんな華奢だ。さしずめ、魔法使いというところか。



 しばらく演奏を聴いていたが、なんとなく変な感じがしていた。

 さらに、よく耳を澄ます。


 ……ようやくその違和感の正体がわかった。


 左右に配置されたストリングス、そして、中ぐらいと大きなものは全く同時に音を出している。それぞれ音程が違うので、綺麗な和音となって聞こえている。

 驚くべきことに、それぞれのパートは、複数人で弾いている感じがしない。

 三人で弾いているようにしか聞こえないのだ。

 これは「完全に同じ音程、タイミングと音量」で弾いているということ。


 中央に配置された小さなストリングスは、ほんの僅かに遅れて鳴る。計ったようにぴったり遅れて鳴る。

 残響効果といって、壁などに反射して鳴る気持ちいい音。エコーとも言うが、壁に敷き詰められた毛皮のせいでほとんど聞こえなくなっている。それを、中央のストリングスが担当しているという仕組みである。


 ストリングスだけではない。

 指揮者もいないのに、これだけの大人数にも関わらず、全員のリズムが完全に一致している。

 ズレというものが全くないのだ。


 楽器を持っていない者は、歌の担当だった。

 歌も全く同じで、複数人なのに、まるでソロで歌っているかのように聞こえる。ピッタリということなんでしょうけど。どうしたらこんなことが出来るんだろうか。



 ……とまぁ、あまりにも興奮して頭の中でぐちゃぐちゃと考えを巡らせてしまったけども、要は、統率の取れた屈強な戦士たちと、これまた一丸となった高レベルの魔法使い、魔導士の大集団だってこと。


 到底、人間業にんげんわざとは思えない。

 神が奇跡を起こしているのではというほどに、感情が心の底から揺り動かされた。



 その時、気づいた。

 カズくんもフェルドさんも感じていた違和感って、これのことかと。


 私たちの演奏は、確かにズレている。

 王立楽団と比べたら失礼かもだけど、到底、『合ってる』とは言えないわ。

 二人はそれを、変だと思っていたのね。


 演奏会が終わったら、ジュゲンさんに聞いてみようっと。

 楽しそうに演奏していたし、私と同じ考えだといいんだけどなぁ。



 演奏者の紹介もなく、そのまま2時間半ノンストップで、神がかった演奏は続いた。

 圧倒的な聖なる音を聞き続けると、まるで無重力空間に放り出されたかのような解放感と浮遊感を覚える。フワフワと自由に飛び回っているような感覚だ。

 そういえば宇宙にはまだ行ったことなかったわね。今度、行ってみたくなったわ。


 最後となる音が途切れる。

 静寂が包んだ。

 そして、全力で100メートルを走った後の鼓動のような拍手が会場を覆った。


 わたしも思わず立ち上がり、気がつけば涙を流していた。

 一緒に来ていた人たちも、もちろん亀でさえ同じだった。

 とっても、とっても幸せな気分だ。


 会場が暗転し、再びスポットライトが王二人を映し出す。


「ありがとう! これ以外に言える言葉はない!」


 アステラの王が叫ぶと、さらに拍手は大きくなった。


 しばらく拍手は鳴りやまなかった。


 やがて再び会場が明るくなる。


 演奏会はこうして、終演した。


お読みいただき、ありがとうございました!


ブックマークなどなど、まことにありがとうございます。

更新の励みとなっております!


引き続きよろしくお願いいたしますm(__)m

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