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第47話 貴賓なんです、私たち

 溢れかえっている人たちの横を通り過ぎ、城壁を沿うようにして歩く。


 小さな扉があった。扉の前にいる兵士に、ジュゲンさんが声をかける。うやうやしく頭を下げながら、開けてくれた。


 石造りの細い通路を歩いていく。少し暗い。

 突き当りの扉を開け、中庭に出た。太陽の光がまぶしい。

 とても広い庭だ。庭の全面には絨毯のように芝生が敷かれ、ところどころにテーブルと椅子が置かれている。


 ジュゲンさんに導かれ、中庭を突っ切る。廊下を挟んで、向かい側の扉へ。


 煌々とした光が飛び込んできた。天井には一面に白い照明が並んでいる。

 扉の奥は弧を描くように座席が並んでいた。一歩進む。

 どうやらここは二階のようだ。

 覗き込むようにして下を見る。正面奥には、一段高い楕円形のステージがある。

 その後ろに、席が何列も整然と並んでいた。

 壁は、毛皮のようなもので覆われていた。


 つまり、ステージ自体は、地下に作られているようだ。これだけの広さ。掘るだけでも大変だったことだろう。確かに、大きな音を出すのであれば、地下に作る方が理には適っている。


 一階にはまだ客がいない。二階は、ちらほらと人の姿が見える。


 係の人だろう。タキシードに身を包んだ男が「こちらへ」と案内してくれる。

 少し傾斜のある床を下り、ステージの右手側、なんと最前列に連れて来られた。


 どうやらここは『貴賓席』と呼ばれるもののようだ。

 中央最前列に座っている人がアステラ国の国王だとゴードンさんが教えてくれた。

 うう、なんて場違いな……。

 ジュゲンさん、そのタキシードは正解よ。確かに魔法使いにも見えるけど、立派な紳士です。くぅ。


 貴賓席の最前列に、劣化版のサキュバスだの、豚だの、魔王だの、トンチンカンな水着姿だの、亀だの。

 恥ずかしくて、変な汗が出ちゃった。

 あ、亀は仮装でもなんでもないんだけどね……。


「なかなか、愉快じゃのぉ」


――そこのおじいさん、ごめん。ちょっぴりファイア当ててもいいかしら……?


「観るのは、若い頃以来だからのぉ」


 ああ、そっちで『愉快』ってことね。確かにずっと演奏していたのだから、客席から見ることなんてなかったんでしょう。うん、まぁ、確かに楽しみでしょうね。うんうん、確かに、そうかもしれないけども……。

 どうしてくれんのよ!


 ジュゲンさんはずっと、私たちの格好を気にする素振りもなかった。

 それどころか、あわよくば、メイシャの胸を触ろうとしていて、ゴードンさんに毎回、睨まれていた。うん、まぁ、歳を取っても元気でなにより……。

 昨日はわからなかったけど、こういう人だったのねぇ。まぁ……、本当に元気でなにより、ってことで、座席は、カズくんとゴードンさんで挟んでもらった。


 そんなジュゲンさんだったが、元王宮楽団のバンマスというのは伊達ではないようで、いろんな人たちが、ひっきりなしに挨拶に来る。一言二言会話すると、さも満足そうに自分の席に戻っていくのだが、びっくりするほど、次々に来る。挨拶待ちで行列が出来たほどだ。


「わしゃ、こういう面倒なのは好かんのじゃ。代わりにやっとくれんか」


 ゴードンさんに小声で言うのが聞こえたが、勘弁してくださいと断られていた。


 挨拶に来る方々よ、どうか私たちの姿は見ないでおくれ。

 どうか、そのように、驚かないでおくれ。

 そして、顔を伏せながら小さく笑わないでおくれ……。


 レイナはまぁ、メイド服だからそこまで変ではないかも。

 あ、しれっとカズくんとゴードンさん、マスクとか外してるし。


 てか、わたし水着だし!

 替えなんて持ってきてないし……。逆にマスク外したくない!

 メイシャと私は顔を真っ赤にしてずっと下を向いていた。


 あ、フェルドさんは全然、恥ずかしくないのかしら。……と思って聞いてみたら、緊張しすぎて動けないと言った。以外に小心者なんだわ、この人。


 そうこうしているうちに、時間になったようだ。

 照明が落とされる。


「ただいまより開演いたします。まず最初に、カスバル・ヘルム・ラルク・ルネボレー18世様より、お言葉を頂戴いたします」


 なによ、その長ったらしい名前、と思って照明の当る人物を見てみたら、あの、若きルネボレーの王様だった。

 アステラ国の国王の隣に座ってたのね。恥ずかしくて顔を隠してたんで、気づかなかったわ。


「本日はアステラ国の王、ベナム・ハンツ・ケッヘル・アステラ15世をお迎えできたこと、心より喜ばしく存じます」


 会場からは拍手が送られた。

 アステラの王が立ち上がる。会場の四方に向いて、軽く何度か会釈した。

 ルネボレー王と握手する。一層、拍手が大きくなった。

 私は拍手しながら「王様っていうのは、どうも長い名前が好きなようね」と思っていた。


「国民を代表し感謝の意を申し上げると同時に、今日この場にいる皆様と共に、演奏会が開催できることを誇りに思う。ぜひ楽しんでいただきたい!」


 さすがのスピーチね……。

 主賓の王を立てるだけでなく、国民全体で歓迎していることも伝えてる。それだけじゃないわ。国民に対しても、きちんと感謝を言葉にしている。

 スカートとスピーチは短い方がいいっていうけど、ほんの一言で全てを言い尽くすんだから、大したものだわ。

 あっ、レイナのスカートはもう少しだけ短い方がいいかしら……。


 国王のスピーチが終わり、会場が少し明るくなった。

 ライトがステージに向けられる。


 とうとう開演だ!


お読みいただき、ありがとうございました!


ブックマークなどなど、まことにありがとうございます。

更新の励みとなっております!


引き続きよろしくお願いいたしますm(__)m

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