第46話 王立楽団演奏会当日
演奏会は午後五時から開催される。
だいたい二時間半。その後、来訪者と王族たちは食事をとりながら歓談する、というのが流れらしい。
そもそも、滅多には開かれないという。
外国の要人といっても、国王クラスでないと行われない。
それだけに、チケットが確保できたものは、嬉しさのあまり見せびらかせて犯罪者に狙われたり、取れなかったものが腹いせに喧嘩が起きるなどを含め、国全体がざわつくイベントのようだ。
今日の待ち合わせは、ゴードンレストラン、午後二時半。
今日はフェルドさんも随分と早く来てるわね。なんだかんだ言っても、楽しみにしているみたい。
「亀の着ぐるみ着ていくんか?」
フェルドさんが、ヒロさんに言った。
――まぁ、着ぐるみじゃないんですけど……。
フェルドさんとジュゲンさんには、まだきちんと説明していない。
ゴードンさんやメイシャ、レイナ、そしてヒロくんにだけは言っている。わかってくれそうな気がしたからだ。案の定、そのことを黙ってくれている。人と接するように付き合ってもくれている。
おおっぴらには、もちろん、したくない。
人柄を見て、タイミングも計って、いつか言おうかなとは思っているけども。
フェルドさんのいう通り、亀の集団が来たら目立つかな? そう思っていたのだが、いらぬ心配だということに気づいた。
最上級のプラチナチケットである。
観に行った人たちに、後からいやがらせをする輩がいるらしい。嫉妬というのは恐ろしいものだ。
そのため、多くの人が仮装をし、誰なのかわからないようにして出かけるのだという。
「おれは魔王で!」
フェルドさんは肩にかけたリュックから、なにやら取り出した。
水牛のような、太く曲がり先の尖った二本の角。額のあたりにはガラス玉だろうが、大きな光る宝石のまがいものがついている。そんなマスクを、すっぽり頭からかぶった。
黒いコートを羽織る。ところどころ穴が開いているが、それも魔王っぽいかもしれない。三角形に切った黒い厚紙をタコ糸に結わいつける。お尻につけた。
イメージは確かに、魔王よね。
……あくまで、『イメージ』は。
本当は、そんなんじゃないの知ってるけども。
ヒロ君はタキシードで執事の仮装だという。ベネチアンマスクという名前らしいが、眼のまわりだけを覆うような、羽根のついたマスクをつけている。ただ、あんまり代わり映えしないわ。
レイナは、メイシャのリクエストでメイド風。ピンク色のフリフリした服。……これ、ステージでもいけるんじゃないかしら。とっても可愛い。
そのリクエストしたメイシャ自身は、相当、気合が入っていた。
サキュバスというのだろうか、黒いランジェリーを基本に黒いレザーの手袋。頭にはカチューシャをつけ、ガーターベルトに靴下。
「一度だけでいいから、変身してみたかったの!」
豚の被りものをしていたゴードンさんはその姿を見てオロオロしていたが、メイシャは絶対にこれで行くと聞く耳を持たなかった。
大ぶりの赤いベネチアンマスクをつけてるので、まぁ、誰だかはわからないでしょ。なんのかんのと言っても、さすがに顔がバレるのは恥ずかしいのでしょうね。
メイシャは昨日の晩、必死に用意したと言っていたが、うーん、一日じゃとても用意できるはずはないだろう。ずっと前から準備してたのかもしれないわね、いつかのために。可愛らしいじゃない、その気持ち。
あたしは……。
――なんも考えていなかった!
もうっ。そういうことなら早く言ってほしかったわ! 知らないんだもの。誰か教えといてよ。
知っているものとばかり、って言われたけど、知らないわよ。この世界に来たばっかりだしっ。
とりあえずビキニの水着にマスク付けてみたわ。まったく、なんのコスプレよ、これ。意味わかんない!
ジュゲンさんはタキシードを着ているだけ。ほかになにも仮装らしきものはしていなかった。でも、なんとなく魔法使いっぽく見えるから不思議ね。
改めて部屋の中を見回してみる。メイシャはともかく、みんな安物っぽくてB級ホラーって感じ。
それはそれで、ワクワクする!
窓の外を見てみる。耳が尖っていたり、ドラゴンの着ぐるみを着ていたり。
とっても楽しそうな世界が広がっていた。
会場は王宮内にあるホールだという。
開場時間まで間があるが、混雑するので、早めに出かけた方がいいと言われ、ここでの待ち合わせは開場の二時間前にしていた。
あたしが準備に手間取ったせいよっ。……ごめん。
皆に急かされるようにして、出かけた。
王宮前は大混雑だった。
普段は一般人、立ち入り禁止。門の前はいつも閑散としているが、今日はコスプレをした民衆が大挙して訪れている。
「痛い痛い! 足踏むなって!」
「押さないでよっ」
「割り込むな、このやろー!」
まさに、大混乱だ。
兵士たちが整理にあたっているが、とても追い付かない。
もう少し早く来ないといけなかったらかしらね、とメイシャがくびれた腰を曲げながら言う。
「こっちじゃよ」
その時、ジュゲンさんが手招きをした。
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