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第44話 初のリハーサル

 待ちに待ったリハーサルの日。

 新しく加わる二人に初めて会える!


 ちょっとソワソワ。

 そしてワクワク!

 午後の三時に予定していたが、なかなか寝てられず、朝早くから起きちゃった。


 落ち着かなくて、町をぶらぶら歩いてみたり、発声練習したり、メヒスキまで空の散歩してみたり。

 魔族のところにワープして魔王さまに挨拶したら「宴会だぁ」と言われて、丁寧にお断りして戻ってみたり。


 なにやってんだろ……、あたし。


 でも、本当に今日、楽しみなの!



  ◆◆◆◆◆◆



 いよいよ待ちに待ったリハーサルの時間……、まであと30分……。

 もう、待ちきれない!


 部屋にいたゴードンさんも気になるようで、さっきから立ったり座ったり、トイレ行ったり。

 別にゴードンさんが、演奏するわけでもないのだけど。

 でも、気持ちはわかる!


 その時、扉が開いた。


 最初に来たのは、真っ白な長いアゴヒゲの老人。

 髪も眉毛も真っ白だ。

 小柄に見えるが、鋭い目つきは、ただ者でない感が満載だ。


 一目で彼がジュゲンさんとわかった。


「お引き受けいただき、ありがとうございました!」


 私が声をかけると「やぁやぁ、こちらこそ」と途端に柔和な目つきに変わった。


「こんな老いぼれで、ええんかなぁ」


「とんでもない! ぜひお願いいたします!」


 カズくんが言う。心なしか、緊張しているように聞こえる。


「ちと早く来すぎたかのぉ。なんせ、楽しみで楽しみで」


 そう言って、かっかっかっと笑った。


「どれ。ただ待つのも詰まらんじゃろ。さっそく演らんか?」


 ジュゲンさんはそういうと、カサーマ(ピアノ)の方へ歩いていった。

 扉のところで迎えていたカズくんとヒロさんも、楽器のところに向かう。

 私は目でメイシャに合図をする。


 ジュゲンさんが、椅子に腰を下ろす。


 鍵盤をしばらく見つめ、宙を仰ぐ。


 両手を高く上げた。


 振り下ろした手からは、水が跳ねるような活き活きとした旋律が流れ出した。


 タイミングを見て、カズくんとヒロさんが加わる。


 それをイントロにし、メイシャが歌い始めた。


『まだ覚えているかしら  あの時の約束

 未来は見えてないけど  心から信じられた日々

 激しい嵐の中も     私を導く光

 ふわりと揺れて揺れて  いつもこの胸の中に


 時の流れは残酷ね   思い出をいくつも作るわ

 まぶしい朝日 心地よい風  そして青い月の下


 あなたを今も愛してる

 運命(さだめ)という日が  二人を分かつとも

 あなたを今も愛してる

 花束贈るわ  幸せという名の

 恋人たちはいつも  愛をささやくもの

 涙よりも  きっと笑顔が似合うはず』


 この歌は、亡くなった夫を思う歌で、ステージでも定番にしている人気曲だった。


 アンディさんの演奏も良かったが、一切引っ掛かりがなく心にスッと入ってくる感覚はジュゲンさんならではのものだろうか。

 思わず泣きそうになっちゃった。


「いい曲じゃが、ちとこの歳には縁起は悪いのう」


 ジュゲンさんが演奏後に笑う。

 その軽妙な一言で、一気にみんなの緊張感がほぐれたようだ。

 それからの演奏が一層エネルギッシュなものとなった。さすがは王立楽団の元バンマスだ。


 亀三人娘にも歌わせた。ビート感のあるアイドルらしい曲。

 さすがに、ちょっと心配でハラハラしながら聞いていたが、「かわいいのぉ、楽しいのぉ」と言ってノリノリで演奏していた。


――良かったぁ!


 心の中でガッツポーズをする。

 その後も楽しい演奏が続いて、時間を忘れてしまうほどだった。


――時間を忘れてしまう?


 えーーーっ、もうとっくに三時過ぎてるじゃない!


 ギター(ヘル)のフェルドさんがまだ来ていないよぉ。


 もしかして辞退……?

 やっぱり、イヤになっちゃったのだろうか。

 うーん、アンディさんの一件以来、かなりナーバスになってるな、わたし。


 その時、再び扉が開いた。


「ういー、待たせたな。ヒック。来てやったぜい、ヒック」


 無精ひげをたくわえたガタイのいい男だ。熱い胸板、まくり上げた腕は音楽家というよりも、肉体労働者のそれに見える。


 背中にむき出しのセルを抱えていた。

 ……てことは、これがフェルドさん?


 真っ赤な顔をして、酒のにおいをプンプンまき散らしながら入ってくる。

 目がちょっとうつろで、足元もフラフラとしていた。


「ああん、やるってぇなら、やってやるぞ。かかってこい。ヒック」


――かかってこいって……。戦闘じゃないんだから。


 カズくんはすっかりフリーズしていた。

 ヒロさんが、どうしましょうかという顔をこちらに向けたので、二、三度うなずいて返した。


 カウントが始まる。


 カズくん、ジュゲンさんがリズムに合わせて演奏をはじめた。


 その瞬間、フェルドさんが、背中のセルをくるっと回し、一緒に加わってきた。


――あれ、悪くない?


 いや、むしろ、いいんじゃないかしら?!


 フェルドさんのセルは、決して繊細ではないが、粒立ちがよく、アタック感が心地よい。少しだけ曲が荒々しくなる感じ。躍動感が出てくる。


 亀三人娘が歌いだした。


 いつもより、歌声がはしゃいでる感じ。楽しそうに聞こえる!


 フェルドさんが急に演奏をやめた。

 両手を大きく振ってみんなを止める。


「やめやめー。ヒック! リズム二人もズレてるし、歌の3人も全然、合ってない!」


――あら……。


「こんなんじゃダメ。ゲホっ。アホかっつうの」


 一気に雰囲気が悪くなった。


お読みいただき、ありがとうございました!


ブックマークなどなど、まことにありがとうございます。

更新の励みとなっております!


引き続きよろしくお願いいたしますm(__)m

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