第5話 魔法おためし
わたしは森の中にいた。
メヒスキの町からどれだけ離れているのだろうか。
空を飛んで来てしまったので、距離感がよくわからない。
薄暗い鬱蒼とした森である。
ファイアが出たんだから、ウォーターってのもあるんじゃないかしら。
ストーンとか、サンダーとかも。
ちょっとありきたりすぎるかしら……。
――つまり、魔法のテストだ!
人目のつくところでやったら、また女神様だのと言われかねない。
でも、自分のスペックを知っておきたいのだ。
その時一匹のオオカミが横から飛びかかってきた。
オオカミといっても、人間の背丈の倍くらいあるような大きさ。
つまり、モンスターである。
「ウォーター」
とっさに唱える。
オオカミに向かって、指から水が噴射した。
ちょっと、もう。
テストなのに本番モードで来ないでよね……。
オオカミの方を見ると、腹のところがぽっかりと空洞になっていた。
森の奥の方で、サーっという音が聞こえる。
もしかしたら、魔法を見て逃げ出したのかもしれない。
とりあえず、ウォーターってのが使えるわけね。
ああ、でも前みたいにファイアを使わなくて良かったわ。
こんな山の中じゃ、大火事になっちゃうところだった。
サンダーも多分ありそうな気がするけど、使っちゃダメそうね。
山火事の原因って、落雷だっていうから。
そんなことを考えながら振り向くと、そこには2体のモンスターがいた。
一体は木の化け物。もう一体は斧を持った木こりの格好をしている。
木こりといったって、人間じゃないことはすぐにわかる。
背丈が5メートルくらいはあるようだ。
白い髭をたくわえて、鹿の角が生えたお面を被っている。
「言葉が通じるのかなー?」というはかない希望は、すぐに打ち砕かれた。
木こりが斧を振り回しながら、襲ってきたのだ。
「ストーン」
あ、こうなるのね。
地面から何本もの槍のようなものが、上に向かって飛び出してきた。
木こりは寸前のところでバックステップし、回避する。
強そうだけど、これは封印だわ……。
ウォータもちょっとグロいけど、串刺しになるのはもっと見たくないわね。
二体の動きが止まった。
うかつに近づいてはやられると思ったのかもしれない。
他にはどんなものがあるかしら。
火水土雷……風とか?
エアー……?
あ、木こりが苦しんでる……。
エアーって、そうか、空気って意味だったわね。
窒息でもさせちゃうのかしら。
正しくは、ウィンドね。
あ、これもだめ。
2体とも吹き飛ばされちゃって、どっかにいなくなっちゃったわ……。
どういう風に使うと効果的なのかしら。
「おおう、なんという強さだ、ウッドマンを吹き飛ばすなんて。歴戦の勇者に違いない」
急に大声で叫ぶ声が、後ろから聞こえた。
声の方を向くと、6人組の冒険者と思われる集団がわたしを見ていた。
「ぜひお名前をお聞かせください! そして、願わくば我がパーティにご同行を!」
もうっ……、そういうのはいらないのよ……。
わたしは地面を蹴って、空に舞い上がった。
下の方では、オオとかワァとか声が聞こてくる。
確かに空を飛ぶって信じられないことかもしれないけど、鳥だって虫だって飛べるんだから。
出来てしまえば、大したことないものよ。
でも、移動は楽ね!
ああ、魔法についてケットバシーに聞いてみようかしら。
んでも、ケットバシーってなんか言いにくいわね……。
ケットちゃんでいいかしらん。
この世界のことについてもっと聞きたいこともあるし。
……。
…………?
……相変わらずね……。
どんだけ忙しいのかしら。
というか、休みとかないのかしらね。
年中無休ってのは、ちょっとかわいそうだわ……。
そんなことを思いながら、適当に飛んでいると、遠くにひときわ大きな街が見えてきた。
中央に城のような建物がある。
町全体に歩道橋のようなものが張り巡らされ、二層構造になっているようで上下にも道が見える。
人の姿が多いわね。
甲冑をかぶっている人もいれば、魔法使いのような格好の人。
バイキング風なのを頭にかぶっている人もいるわ。
町人風の人もたくさん。
色々と話を聞くにはいいかもしれない。
わたしは街から少し離れた、人気のないところに降りた。
いきなり空から降りたら、また女神様とか言われかねないからね。
街のある方へ歩いていく。
上から見た時はさほど感じなかったのだが、門の正面に立つと、いかに大きな街だったかがわかる。
門は見上げるほどに大きい。
前には4人の兵士が槍を持って立っていた。
大きな門は閉まっているが、横に通用口のようなものがあり、人々はそこから出入りしていた。
わたしも後に続いて入ろうとした、まさにその時だった。
「おい、そこの女、通行証を見せろ!」
通用口の横にも衛士がおり、声を掛けてきた。
街に入るのに、なにか必要なのかしら?
「通行証は持っておりません」
「では身分証は?」
自動車の免許書みたいなものかしら。うーん、持ってないわね。
「身分証もありません」
「見慣れない顔だな……怪しい……」
まぁ、確かに。危険物も持ってるわ、トータスゴッデスを灰にするほどの炎とかね……。
「しかし、そこまで立派な服を着ているとなると、どこかの貴族のお忍びかなにかか?」
ガザンドってやっぱり、裕福な家だったのでしょうね。
町の名士ってとこなのかしら?
今着ているのは飾り気のない服だけど、確かに生地は上等。
こういうのが貴族の服なのかもしれないわ。
でも、見慣れない顔って、あんたこんなに人が大勢いるのに、一人一人の顔を覚えてるの?
「こんな綺麗な娘を、おれが覚えていないはずはないんだが……」
そういうことなのね。
女の色気でたぶらかしちゃいますか。
……だから、そういう考えはダメだってば!
オバチャンアイドルの時の考え方は変えなきゃいけないわ。
バカねぇ。
妙におかしくなり、微笑んでしまった。
「か……かわいい……」
衛士は顔を赤らめていた。
もういっそのこと、貴族の娘になっちゃいますかね。
「この町に用事がございます。
少々ワケがあって、連れの者もつけず、わたし一人で参っておりますが、身分証なども持ち合わせておりません。
父から連絡が行っているかと思いますが、いかがでしょうか?」
もう一度にっこりと笑ってみせた。
「や。大変失礼いたしました。どうぞお通り下さいませ!」
わたしは頭を下げて通ろうとした。
衛士が近寄って頭を下げてきた。
「なにとぞお引止めしたことはご内密に。衛士風情で貴族様に声を掛けたなど知れましたら責任問題ですので……」
どうやらこの世界では、貴族などの階級があり、身分がはっきりしているようだ。
わたしはまた、にっこり笑っておいた。
すぐにこの街は、ルネボレーという名前だということがわかった。
城下町であり、ここらへんでは一番大きな街だということも。
第1章が終了です。
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