第42話 しばしの別れ
「ピクシーに話をつけに行くわ!」
トータ姫はそう言ったが、住んでいる場所は魔族でもわからなかった。
だが出入口のうち一つが、ピクシーの住む世界と繋がる時があるという。
残念ながら、そのタイミングは今からだいたい1か月後らしかった。
それまでにまた、いたずらされてトータス・ゴッデスにされないとも限らない。
姫は不安だと言った。
「その時はまた私が助けてあげるから」
私の言葉に姫はうなずいた。
トータ姫の新しい国を襲わないよう、しばらく調査は独りで行う。必ずどちらかが国に残るようにするとプリンシペさんとフェリペさんは言ってくれた。
もしまた使者が来ても協力を断るとも約束してくれた。
口約束だが、目的としていた魔族と仲良くなること、すなわち『協定』は成立である。
「また今日も宴会するだぁ!」
いきなり扉が開き、魔王が入ってきた。
――今日も……ですか?
私はバンド・オーディションのことも気がかりだし、姫たちも国造りで忙しいだろう。
当面の目的が果たせたのだから、長居は無用だ。また暇をみて来ればいい。
「魔王さま、申し訳ありません。私たちはもう帰らねばなりません」
「それは残念なのだぁよ。さびしいだぁ」
閉ざされた魔族の国。
いつ来るともわからぬ外界の友。
不安と寂しさ……。
様々な謎の原因は、呪いなどではなく、このような状況にあるのかもしれない。
その時わたしは思いついた。
さよならの代わりになる歌があったなと。
――アカペラじゃ寂しいわね。そうだ!
「一旦帰って、すぐ戻ってくるから、みんなを宴会場に集めてくれない?」
「今日も宴会だ!!」と魔王が喜んだが、そうではないと言っておいた。
魔王は悲しそうな顔をしたが、すぐ戻ると言うと満面の笑みに変わった。
私はワープで家に戻る。
部屋にはヒロさん含め亀たちが、姫の帰りを今か今かと待っていた。
「姫さま、無事なのですか?」
亀たちは私が独りで戻ったことに、何かあったんじゃないかと心配した。
全て上手くいったと安心させる。すぐ姫も戻ってくるからとも伝えた。
――たしか、こっちの部屋に……。
ゴードンレストランの楽屋に向かう。
そこには、カズくんがいた。
「オーディションの件ですが……」
「ごめん! すぐ戻るので、もう少し待っててくれる?」
なにかオーディションであったろうことは、カズ君の顔、そして、さっき見たヒロさんの表情からも伺える。
でも、とにかく魔族にお礼を言わなくちゃ!
私は隅に置かれていた安物のギターを手に取る、部屋を出てすぐにワープした。
着いた先は魔王のリビング。急いで体育館……もとい宴会場に向かう。
中に入り、奥に進む。
「もっと長くいるだぁよぉ!」
「さみしいだぁ!」
すでに帰ることは伝わっていたのだろう。みんなが声をかけてくる。
姫とジャンさん、魔王の一族がオオカミの紋章の下に集まっていた。
走って向かう。
「トータ姫、お別れの挨拶をお願いします!」
私の言葉に、箱の上に立ち、話し始めた。
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昨日は盛大な会を開いていただき、ありがとうございました。
みなさま、突然に伺い、突然に帰ってしまうことをお許しください。
私の国はみなさまによって滅ぼされました。
これは決して消えない事実です。
ですが、私はそのことを恨んではおりません。
お互いを知り、お互いを認め合い、色々なことを語り合うことで、必ず良い関係が築けるものと信じています。
たった一日ですが、皆さまと私たちは友人になれたと思っています。
もっともっと、みなさまのことを知り、さらに深い関係を築きたいと考えています。
残念ながら、これにて我が国に戻りますが、また遠くない未来に、多くの亀とともにこの地を訪れることをお約束いたします。
未来永劫、かけがえのない友人として、仲良くさせていただきたく!
ありがとうございました。
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魔族の中には「オー!」と雄たけびをあげる者、涙を流すものもいた。
いきなり振ったのだが、さすがに『姫』だなと思わせるスピーチだった。
この間に私はヘルのチューニングを済ませていた。
あんまり上手くないけど、なんとか伴奏くらいなら弾ける。
急いで歌詞を頭の中で書き換える。……いけるかな?
「みなさん、最後に私から歌のプレゼントをさせていただきます!」
私はヘルを持って箱の上に立った。
伴奏のコードを鳴らしていく。
魔族の間から、再び「ウオー!」とか「ワー!」とか歓声が上がった。
『遠く遠く続いていく
果てしない道の先を
淡い色を描いてっただ
ほんのわずかに少しずつ
時の流れ 少しだけ
明日を濃く彩っていくだ
それぞれの夢を抱いて
いま 一歩 踏み出そう
傷つけあったこともある
幼い心のままに
信じあえた夜がある
語り合ったあの言葉
忘れない なにもかも
思い出は僕らの胸に
また会うだぁよ この広い草原で
僕も歌いたいだ あの青い月の下で
また会うだぁよ 交わした約束を胸に
君も歌ってくれ さよならのかわりに』
神話で、英雄たちがそれぞれの敵を倒すために明日から別行動をとる、という話がある。
その時に交わした約束をもとにしたんだけど、実際に頭にあったのは前世での卒業式の光景ね。
で、魔族の言葉を取り入れてみたの。ついさっき、訛りの話が出たんで。
あってるかどうか自信はない。文字数が変わっちゃったりしたので上手く歌いきれなかったところも出てきちゃった。
でも、この歓声を聞く限りでは、良かったんだと思う!
途中から手拍子も入ってくれたし!
「みなさま、ありがとございました!」
さらに拍手と、わーっという歓声が大きくなった。
魔族たちが私のところに駆け寄る。それはなんです? と聞いてきた。
「これはヘルといって、ここのところ押さえてね、こっちをジャランと弾くと……こうな音が出るの」
鳴らすたびに「へぇ」とか「ほぉ」とかいう声が聞こえる。
特に熱心に話しかけてきたのがフェリペさんだった。
「押さえている場所で音が変わるのです?」
「上からと下から弾くのでは、ちょっと聞こえ方が変わるのですね」
「ここに張ってある線って、鉄ですか?」
質問攻めにあった。
「よかったら、弾いてみる?」
「いいんですか?!」
「いいよー!」
手に取って、わたしがやったように、弦を押さえようと……したのだが、尖った長い爪であっという間に弦がプツプツと切れてしまった。
――ぐあ!
フェリペさんは低く唸るような声を出した。いや、やっぱり魔族。その声はちょっと怖い……。
「ご、ご、ご、ご、ごめんなさい!!!」
普通に話す声は、そこまで恐くないんだけどね。
私は魔力を調整して、切れた弦を炎の魔法で溶接した。もう一度張りなおす。
ドカンと魔法を打つよりも小さく使う方が私には何倍も大変なの。でも、ちょっとずつ練習してたのよね。こんな時に成果が出るとは思ってもみなかったけど。
フェリペさんからは、さらに質問攻撃を受けた。
「そんなに興味あるなら、これ、あげましょうか?」
亀国との国交樹立の記念、ってわけではないけども、プレゼントしてもいいかなと思った。
まぁ、これはそんなに上等のものじゃないわ。改めてそのうち、ヒロさんに作ってもらおうかしら。
「ぐおおおおおおおお、ありがとうございます!!」
フェリペさんに手渡すと、愛しいものを抱くかのように持って、喜んだ。
――魔族のみんなに、私たちとの思い出が残れば嬉しいな。
そして、もしトータ姫たちを襲うような人たちが来ても、その人たちの言葉に惑わされたりしないようになれば、と私は願った。
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