第39話 魔王さま、こんにちはー!
「うおっ! すまねぇだぁ。まさか誰かいると思わんかったってばぁよぉ。ケガさ、してねぇだかよ?」
出てきたのは……。ロン毛でバンダナを巻き、サングラスをかけた男であった。
派手なTシャツの上に花柄のシャツを着ており、先の膨らんだ青いズボン。
これって歴史の教科書かなんかで見た『ヒッピー』ってやつじゃなかったかしら?
ただ、肩には鍬をかついでいた。
わお! 先のとがった尻尾! ここだけ魔族っぽい!
「あ、こ、こんにちは……。もしかして、魔族の方です?」
「なぁにを当たりめぇなこと言ってるだぁ? ん?
もすかして、あんたら下の土地から気なすったかい? あんりまぁ、たまげたでねぇかぁ」
実にのんびりした口調だった。
「おぃおぃい、下からお客さんだぁでよぉ。ちょっくら挨拶すべぇよぉ」
女性が出てきた。男と同じような服装をしている。
「なんだば、ウソこくでねえって。……あんりまぁ。たまげたでねぇかぁ。
ほら、息子よぉ、下からお客さんだぁよぉ。ちょっくら挨拶すべぇよぉ」
子供が出てきた。驚いたことに、またまた同じ服装をしている。
「なんだば、ウソこくでねえって。……あんりまぁ。たまげたでねぇかぁ。
ほら、弟よぉ、下からお客さんだぁよぉ。ちょっくら挨拶すべぇよぉ」
……今度はもう少し小さな男の子が出てきた。同じ服装だ。
「なんだば、ウソこくでねえって。……あんりまぁ。たまげたでねぇかぁ。
ほら、妹よぉ、下からお客さんだぁよぉ。ちょっくら挨拶すべぇよぉ」
「ちょっとーっ! どこまで続くのよ!」
トータ姫が叫んだ。
……どうやら10人兄弟だったらしい。
「ほんでま、遠路はるばるようこそいらしただなぁ。んで、何の用だ?」
あ、なにしに来たんだっけ? あまりの驚きで忘れちゃったわ。
「王様、みたいな方っていらっしゃるんですかね?」
トータ姫が言った。そうだそうだ、話し合いに来たんだった。
「魔王様だすかー? おうおう、大事なお客様だったかぁ。おい、せがれや。乗っけてやりぃ」
「とおちゃー。おいらだぁめだぁ。こないだスピード違反で免停くらったばかりだぁ」
「この子ったら、まったく不良でしょうがないんさぁねぇ」
母親らしき女性が言った。
「そりゃそうと、お客さんにお茶も出さねぇで失礼しただぁよ。あたしが送ってくんで、準備できるまでお茶でも飲んでってけろぉ」
家の中に通され、テーブルに腰かけた。出されたお茶をジャンさんが先に飲み、「大丈夫です」と言われてから、姫も飲んだ。
うん、さすがは王家だな。のどかな雰囲気でわたしはすっかり気が抜けてしまっていたが、これが罠とも限らない。毒見したんだな。
外でブインブインという音が聞こえてくる。しばらくして工事現場で使うような黄色いメットを被って母親が顔を出した。
「準備できただぁよ。……あんりまぁ、そういや3人かぁ。一人しか乗せらんねぇよぉ」
もっと前に気づけーっ! と喉まで出かかったのをなんとか飲み込んだ。
「大丈夫ですよ。こうしてっと」
私はそういって、姫とジャンさんを小さくして手に持った。
「おやぁ。あんた結構すごい魔法使いだぁな。さすが魔王さんのお客さんだ、たまげたぁ」
口でそうは言うのだが、抑揚のない喋り方なので、本当に驚いてるんだかそうでないんだかよくわからない。
「さぁ、乗った、乗った。いくだよぉ!」
あたしが外に出ると、そこには黒いバイクのようなものがあった。後ろに乗れという。
「しっかり掴まるだぁよ!」
そういったかと思うと、グイっとスロットルを回した。ブオンと排気音が聞こえたかと思うと、猛スピードで飛び出した。
――あれ、もしかして浮いてる?
すごい速さで飛び出したと思ったら、気づいたら宙を飛んでいた。
さらに上へ。
雲の切れ間を飛び越え、さらにまた別の雲を飛び越え、どんどん上へ昇っていく。
どうやら雲は段々になっているようだった。
でも、ちょっと速すぎない? 振り落とされそうなスピードだ。必死になって掴まる。
「ピピーッ!!」
笛の音が聞こえた。白いバイクが近寄ってくる。
「そこのバイク、速やかに止まるだぁよー! スピード違反だぁ~」
「あんりまぁ」
って、息子がスピード狂なのは母親譲りなんじゃないかしら。
「制限速度30キロオーバー。免許出すずらよ!」
バイクがキッという音を立てて雲の淵に止まった。いわゆる警官なのだろうか。白いバイクが近寄ってくる。む、また同じような格好の男だ。
「魔王さまにお客さんだぁ。急いでるんだぁよ」
……いや、別にそんなに急いでたわけじゃないけども。
「ん、今日はお客さんは来ない日のはずずらぁ」
「あんりま。ほんじゃ、だれだぁ、この人たちわぁ」
別に約束して来てるわけじゃないのだけど……。お客さんとも、一度も言ってないし。
「下の世界から来たずら?」
どういったら正解なんだろう……。
もし逮捕するとか言われたら、速攻でワープすればいいわ。ここは嘘つかないでおこう。
「はい。魔王様にぜひお会いしたく」
「ほぉおおお。喜ぶずらぁ。こっち乗るずら!」
ほっ。良かったみたい!
では、急ぐずらー。
って……、あんたも、……ス、スピード狂か。
後ろからさっきの母親もついてくる。
「こらぁ、そんなにスピード出しちゃいかんずらー!」
「いいべぇなぁ、今日はお祭りだがな」
「まぁ、そういうことずら!」
魔王が住む城は漆黒の闇の中に不気味にたたずんでいた……わけではなく、平屋と二階建てが並ぶ、普通の家だった。玄関の前でバイクを下ろされる。
「ピンポーン」
うわ、普通にベル鳴らしたし。
「魔王様いるずらー? お客様ずらよー」
「ほいほいー、うひょー!」
えっ、今の声が魔王? やけに明るくない?
すぐに、ガチャっと扉があき、魔王が出てきた。
やっぱり、ロン毛にバンダナだ。
「あんりまぁ、嬉しいだぁ! おぃおぃい、下からお客さんだぁでよぉ。ちょっくら挨拶すべぇよぉ!」
それはもういい……。
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