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第38話 魔界

 メンバーの審査は、日にちを決めて、オーディション形式でやることになった。


 応募してきたのは王立楽団入りを狙ってる人たちがほとんどだと思う。年齢は高め。半分諦めてお金稼ぎ、ってなところかしらね。まぁ、仕方ないわ。


 カズくんとヒロさんが演奏、メイシャとレイナが交互に歌ってもらって、一人ずつ審査することになってる。

 あたしは石板でその様子を録音する担当。


 カズくんはなんと、昨日冒険者のギルド登録やめちゃったんだって!

 昨日はお別れ会があったそうだけど、相当みんなに引き留められたらしい。

「もともとそのつもりでしたから」って。

 ありがとう、カズくん。ごめんなさい、冒険者さんたち。


 今日はヒロさんが作ってきたアンデロのお披露目もあったんだけど、ボディのところに綺麗な木目が入っていて、トラの皮みたいな見た目になっていた。前世ではウッドベースでこういうのは見たことなかったんだけど、とっても美しい。


 カズくんが弾いたら、ぶんぶんって、ものすごくいい音したの。

 魔力が上がったせいもあるんだろうけどね。

 目をキラキラさせながら弾いてた。


 ただ、楽器の名前を「ヒロ二号」と言った時には、カズくん、ちょっと嫌そうな顔をしていたなぁ。まぁ、バイオリンの名器、ストラディバリウスも作った人の名前だっていうし。そのうち慣れるんじゃない? なんて思って、ただ笑っておいた。


 加えて、もう一つ、びっくりするものをヒロさんが作ってきたの。


 前の世界でいうアンプ。

 こっちの楽器ってほとんどが、魔力を使ってその楽器自体から大きな音を出すので必要ない。

 でも前にあたしが魔力を込めすぎて壊しちゃったことから、超頑丈な音を出す装置として作ってくれたらしい。


 アンデロを普通にならして、その音を魔力でそこに飛ばすと。

 で、そのアンプに魔力を込める量を調節することでクリーンな音も歪んだ音も出る仕組みになっている。


 飛ばすのとアンプとで魔力の調整が難しくて苦労してたけど、魔力が強くなったためか、しばらくしたら両方に魔力を送れるようになっていた。

 ヒロさん、これ、もっといっぱい作ってー! と言っておいた。


 この名前をどうするか悩んでてなかなか眠れないんすよ、とヒロさんが言った。


「悩むとこ違うー! もうっ、ヒロダー1号でいいじゃない!」


「それ、いいっすね!」


 いいんかいっ!?



 今日のメインはオーディション前日のリハーサル確認だったんだけども、急にトータ姫から、明日来てほしいと言われちゃった。

 なんでも、魔族のいる場所、すなわち魔界へ行くという。


 明日は大事な日だから、と言ったんだけど、魔界の口が開くのがなんでも半年に一回とかで、これを逃すと暫く行けないのだという。

 よくわからなかったけども、まぁ、オーディションはカズくんがいるから問題ないかなぁ、ということで、トータ姫を優先することにした。



 ◆◆◆◆



――翌日


 海岸で姫と待ち合わせた。


「魔界の入り口ってどういうこと?」


 この世界の空は半年でぐるっと一周しているようで、半年に一回、この世界の穴と魔界の穴がぴったり重なるときがあるそうだ。その時に入ると、魔界へ行けるとのこと。


「もしかしてそうなると、また半年しないと戻ってこれなかったりする?」

 と聞いたら、ワープで戻れるんじゃない、と言われた。まぁ、そうか。


 とはいえ、行った先がどんなのかわからないし、そもそも空の上に穴があるので亀では行けない、ということでわたしが呼ばれたようだ。


 行くのは姫と護衛のである騎士のジャンさん。

 もしヤバくなったら、二人だけなら連れてワープできそうだということで二人に絞ったそうだ。そうね、確かに3人はきついわ。


「お気を付けください」


 見送るときに亀たちは口々に言った。みな、どことなく緊張した面持ちだった。



 二人を抱えて空を飛ぶ。


「ここらへんかも」と言われたので、その場所で静止した。


 しばらくすると空の真ん中に、真っ黒な渦が見えた。


「これが魔界の入り口ね……」


 そのものズバリというような邪悪そうな入り口である。

 ジャンさんがゴクっと唾を飲み込んだ。


「いい、行くわよ?」


「はい!」


 さすがにドキドキした。


 ……のだが、穴を抜けた瞬間、見えてきた景色にちょっと拍子抜けしちゃった。


 なんかこう、薄暗い洞窟の中とか、コウモリがバタバタ飛んでて奥に今にも崩れそうな城が見えるとか、そんなイメージを持っていたのだけど、全く違うの。


 金色に光る芝生が一面に広がっている。

 ポツポツと木が立ち、小川も見える。田舎の景色のようだ。

 不思議なことに太陽が見えないが、芝生が光っていて明るい。


 ここが本当に魔界なんだろうか?


 私たちは細い道の上に立っていた。

 左右に道が伸びている。こっち行ってみましょう、とジャンさんが言ったので、まずは右に進んでみた。


 ……進んでみたのだが、景色は一向に変わらない。道も一本道だ。

 延々と歩き続けた。


 一時間ほど歩いたころだろうか、道が途切れ、その奥に白く濁った水のようなものが一面に見える場所に出た。

 なんだろうと覗き込む。水のようだと言ったが、触ってみるとふわふわしている。


「もしかしてこれ、雲ですかな?」


 ジャンさんが言った。で、ふと上を見上げると、ご丁寧なことに「立ち入り禁止:雲池」と書かれたプレートが空中にふわりふわりと浮いていた。


「ジャンさんの迷子スキル出たわね……」

 トータ姫がつぶやく。


「ん?」


「ジャンさんはいつも、行きたいところの反対の方、反対の方へ進むクセがあるの……。逆を選べばよかったわ」


「かたじけのうございます……」


 そういうの、もっと早くいってよね……。

 ポチャンと音がした。雲の池で魚が飛び跳ねたようだった。


「来た道戻らなきゃかぁ」


 口にした瞬間、はっと気づいたかのように、姫と私は顔を見合わせた。


「飛べばいいんじゃない!」


 ……うん、ジャンさんを責められないわ。



 飛んだらあっという間に元の場所に戻れた。


 さらに進む。


 遠くに尖った赤い屋根の家が見えてきた。

 魔族の家だろうか? にしては、あまりに牧歌的でない?


 家の前に降り立った。遠くからみたまんまの、まさに素朴な家だ。


 木のドアがある。

 ノックしてみましょうか?

 もしかしたら、いきなり血まみれの口に変化して食われたりしない?

 ええっ!? で、誰がやる?

 わたしやだー。

 そんなことを三人でごにょごにょと小さな声で言っていた。


「ここは騎士たるそれがしが……」と言ってジャンさんが叩こうした瞬間、扉がバタンと開いて、ジャンさんの頬にクリーンヒットした。


お読みいただき、ありがとうございました!


ブックマークなどなど、まことにありがとうございます。

更新の励みとなっております!


引き続きよろしくお願いいたしますm(__)m

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