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第37話 ディストーション

 ヒロさんが、だいぶ曲を覚えてきたので、もう一回録音してほしいと言った。

 石板に録音するのは、さほど魔力も必要なさそうだ。

 ……というか、あたしがおかしいのかもしれないけども。


「いいよー」

 と言って、再び演奏してもらう。


 ヒロさんはもう曲を覚えてしまったのか、構成など間違えずに叩き切った。

 さすが、ダンテくんのもとで修業しただけのことはあるわね。


 ただ、カズくんが小さなミスを連発したり、曲構成自体を間違えたりしてひどかった。


「すいません……。ごめんなさいっ! なんか緊張しちゃって」


 その後何度かやってみたが、やっぱり色んなところで間違える。

 はっはーん、さては自分の演奏が録音されると思うからかな。私もそうだったなぁ。

 心の問題はヒロさんにお任せしようっと。



 こうして何度か聞いているうちに、なんとなく足らないところが見えたような気がした。

 ギターやピアノってのももちろんだけど、そうじゃない。


 わたしは石板を持ちながら、演奏しているカズくんの背中にもう一方の手を置く。

 ひぃっとカズくんが叫んだが、そのまま続けてーと言う。

 アンデロの音色が変わってきた。


 ボンボンという音が徐々に、ブンブンに代わる。わたしはさらに魔力を込める。


 ブイブイという音に変わってきた……が、バキっという大きな音とともにアンデロの胴体が真っ二つに裂けてしまった。


「ああああ、ごめんなさいっ!!!」


 大事なアンデロを壊しちゃった……。


「ああ……」


 カズくんが茫然としながらも、

「そんなに高いもの使ってないので、平気ですよ……」

 と言ってくれたが、ちょっと涙目だ。

 音は出るが、ビヨンビヨンという妙なノイズが入る。


「で、でも!」とカズくん。


「途中、上手くなったように聞こえました!」


「どういうこと?」


「艶があって、まるで王立楽団の人が出している音のような……。一体なにしたんです?」


「魔力を込めただけなんだけど……」


 カズくんはなるほどと言って目を輝かせた。

 アンデロという楽器は魔力を込めると単に音が大きくなるだけではなく、込め方次第では音色にもハリが出てくるのかもと言った。


「もっと魔力の使い方が上手くなったらいいのかも……」


 そういってあたしの方を見た。いや……期待されても、教えられないわよ、チートだから。


「でも、最後のはちょっと聞いたことのないような汚い音でしたね」


「んー、そうかしら。この曲だとぴったりだと思うんだけどな。あの音って、ディストーションっていって、そうね、たとえば声でも似たようなことができるんだけど、こんな感じ」


 か“ああああああっ。


「あは、カエルみたい」


「そう? ゲロゲロ」


「あはは」


「でも、歌の中だとこんな風に使えるのよ」


 ぱっと曲が思いつかなかったので、演歌でこぶしを回してみた。

 って、すぐ出来ちゃうのすごいわね、あたし。メイシャが目を輝かせながら見ていた。


「ま、でも、ちょっとアイドルっぽくないけども」


「アイドル?」


 メイシャがなにそれ、という感じで訊いてきた。アイドルってこっちの言葉にはないものね。

 んー、頑張ってる女の子の歌、って感じかなぁ。ううん、いや、それだけじゃなくて、なんだろう、よくわかんないなぁ。

 メイシャは首をかしげながら「ふーん」と言った。


「冒険者になって、魔力鍛えてみようかな……。あ、でも、魔法使えないしな……」


 ヒロ君がブツブツ言っている。そんなに魔法って大変なものなのかしらん。


「ファイアって言うだけで出るんだけどなぁ」


 あ……。

 小さい炎が飛び出て、アンデロに燃え移った。


「ウォータ、ウォータってばー!」


 すっかり、カズくんのアンデロが灰になってしまった……。あたしゃ取扱注意かいっ!

 すっかり涙目のカズくんに、ヒロさんが、もっと頑丈なのを新しく作ってやるから落ち込むなと声をかけていた。

 うう、カズくん、ヒロさん、ごめん。



 ◆◆◆◆



 それから三日ほどしてヒロさんが立派な最初のアンデロを作ってきたが、弦を張ってもちゃんと音が出ないようで、カズくんとあーでもない、こーでもないとなにやらやっていた。


 それと、どうやらカズくん、冒険者としてギルドに登録して、ファイアを打ちまくってるらしい。

 結構強いようで、その見た目もあってか、女性パーティーに大人気だという。

 楽器もないしステージももちろんないんで、時間余っちゃってるのかしら。

 ごめんね……。


 そう。ちゃんとバンドとしてやるためにも、他の楽器はやっぱり欲しい!

 でも、だれもやってくれないし……。


 そんなことを考えていたら、ゴードンさんが、いっそのこと募集の案内でも出してみようか、と言った。


 今までにないことだし、この世界でと期待はできないだろうしなぁ、とか思いながらも、お店の正面や、新聞の中に広告を入れてみることにした。


 ------------------------------------------

 演奏メンバー募集!!


 アンデロ、タタトナイス以外募集します。

 一緒にゴードンレストランで演奏してみませんか?!

 給料、勤務時間応相談です。

 お待ちしています!

 ------------------------------------------


 ちなみにタタトナイスってのは、ドラムスのことね。すんごい言いにくい。


 こんなんで来るわけないかと思いながらも、実際にやってみたら、なんと、それぞれのパートで10人以上応募があったの。なんでも試してみるのがいい!


 メンバーの審査はカズくんにやって欲しいとお願いしたら、二つ返事でやります! と言ってくれたものの、冒険者としてすっかり忙しくなっちゃったようで、普段はなかなか来てくれなくなっちゃった。

 んー、アンデロやめないでくれるといいんだけど……。


 で、その壊しちゃったアンデロなんだけど、カズくんは魔法使って鍛えたせいか、ヒロさんの作ったやつをその場で壊しちゃったっぽい。どんだけ魔法強化したんだか……。


 ヒロさんはヒロさんで、壊されちゃったもんだからがぜん張り切って、ドラムそっちのけでアンデロ作りに籠っちゃってる。


 まったくもう、みんな、いいんだか、悪いんだか……。


お読みいただき、ありがとうございました!


ブックマークなどなど、まことにありがとうございます。

更新の励みとなっております!


引き続きよろしくお願いいたしますm(__)m

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