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第35話 大工魂

「ねぇ、ヒロさん」

「なんすか?」

「ドラムのセッティングって誰がしてくれたの?」

「あっしがやったっす。適当ですけどね」


「ふーん。でも、なにか気づいたことはない?」

「気づいたこと?」

「うん、なにか変わったとか」

「うーん」

 ヒロさんは首をひねった。


「ドラムのことはほとんどわからないのだけども、叩くのを見ててね、ちょうどいい位置にセッティングされているような気がしたのよね。初めて叩いてもらったときは私もよくわからなかったんで、それこそいい加減にしちゃったけども。

 さっき見てたら、手や足が自然に動く位置にそれぞれの楽器が置かれてるんじゃなかって思ったのよね」


「マジすか?」


「うん。もしヒロさんじゃないのなら、きっとダンテくんがやったんじゃないかって思うのだけども」

「まさか。いや……ただただ夢中で、なんも気づかんでした」


「それに」

「それに?」


「ヒロさん、大工になるときって、どうやって仕事覚えてきました?」

「どうって?」

「先輩とかに手取り足取りで教わってました?」

 ヒロさんの顔色がスッと変わった。


「ヤクザもんばっかなんで誰も教えてくれるもんか。親方がカンナで削ってるの見りゃ、行って目を皿のようにしてみてたし、便所行くったってついてって怒られたもんよ」


「わたしがメイシャやレイナに教える時、そういうやり方がいいのかどうか私にはわからないけど……」


「いや、バカだったなぁ。なんかすっかり『お客さん』のつもりで行ってたってことかぁ」


 ヒロさんはため息をついた。


「ただな、大工の中にはいくら真剣にやってたってモノにならん奴もいた。ほかに幾らでも取り柄があるんだって辞めさせたやつもいたさ。その方が幸せになれるってな。

 で、あっしはアンタの目から見て、なんとかなりそうだって思うかい?」


「それはもちろん!」


 私は両手の親指を立てて good のサインを出しながら言った。


「そうかそうか。んじゃ、また明日からやってみるかなー」


 ヒロさんはそう言って豪快に笑った。



 翌朝、ヒロさんを再び送り届けた後、こっちにいる亀全員を送る。

 毎日行っている。こっちはポンと一発だ。


 海底の底、すり鉢状の地形にはもう立派な壁ができていた。最初に行った時にはほとんどなにもなくガランとしていたが、今では徐々に家も建ち、道路なども作られている。

 ただ、話を聞くと、ヒロさんがいないので、少し予定よりは遅れているそうだ。


 ごめんね、わたしのために。


 そういうと、みんなは決まって、あいつがやりたいと思うんだから、したいようにすればいいと言う。

 親分肌の性格もあってか、亀たちの中でも、かなりで信頼されているらしい。


 墓地がそろそろ出来たそうだ。今日はそのために全員で集まった。


 小さくした亀を元に戻すが、骨になっており、だれが誰だか見分けがつかなかった。

 穏健派だけでなく、急進派の亀もこの中にいる。


 一緒に同じ墓に入れてもいいだろうかと反対するものもいたが、「それでも構わない」とトータ姫は言った。


「もちろん、私たちとは同じ墓に入りたくない、と彼らは言うかもしれない。だから勝手な言い分として聞いてもらっていいのだけども、これから作る国は今まで通り、いろんな意見を持つ人がいていいと思うの。

 いろんな考えの人がいて、好きなだけ言いたいことを言ったらいい。私たちをこんな目に遭わせた人たちのことだって、決して差別したり恨んだりすることなく、同じ亀として平和に暮らしていけたらいいじゃない」


「姫様、そいつぁ甘くないですか? そんなこと言ってて、もし我々を追い出した奴らが攻めてきたらどうします?」


「そうならないよう、努力するわ」


 姫がそう仰るならと、それ以上口を挟む者はいなかった。ごっちゃになっちゃったのは、わたしの責任だわ……。


 あとで姫に、もし万が一のことがあったら、私が魔法でやっつけるからー、と言ったが、


「本当にどうしようもなくなったらお願いするけども……。でも、戦いで勝っても負けても残るのは恨みばかりになるかも」と言った。


 変顔をするトータ姫だが、やはりメヒスキの王様と同じく深いなぁ。

 いくら戦闘能力がチートでも、それじゃ解決できないものも確かにあるわね……。


 そうだ、メヒスキの王様と会わせてあげられたら、とあたしは思ったが、トータ姫は別のことを考えているようだった。


「なんとか魔族と仲良くなれる方法はないかしら?」


 前の国で民主化を推進していた者たちは、魔族と組んで王家を追放した。その魔族と手を組めたらと考えているようだ。魔族は謎に包まれており、少なくとも今ここにいる亀たちの中には情報を持っているものがいないという。

 力になれたらいいなぁ。



 そうこうしているうちに、また一週間がたった。

 バックバンドがいないのでステージは開けていない。ステージがなくてもレストランの人気は今のところ落ちてはいないが、ぜひやって欲しいとお客さんからは要望を受けているらしい。

 ゴードンさんもいろいろと手をまわして演奏家を探しているそうだが、受けてくれる人はいないという。


 今日はヒロさんのところに行く日だ。


「ダンテ先生、しばらく練習はお休みになるそうです」


 会うなり、ヒロさんが言った。


 ありゃ。ダンテくんのこと良いように言ったけど、私の思い違いだったかしら。


お読みいただき、ありがとうございました!


ブックマークなどなど、まことにありがとうございます。

更新の励みとなっております!


引き続きよろしくお願いいたしますm(__)m

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