第33話 △○▼☆※▲◎★●!?
控えの間に通された。
どうやら今、どこかの国の特使と会談しているとのことで、少しだけ待って欲しいと言われている。
ケットちゃんと違って、本当に忙しそうな王様なんで、あんまりちょくちょく来ちゃ悪いと思いながらも、今回ばかりはどうしてもお願いしたいのよね。今回は、別の意味でちょっと不安なのだけども……。
「呼んだかニャ? 忙しいニャ」
呼んでないっつうの。
「そんなこと言われたら寂しいニャ」
まったく、必要なときにはなかなか来ないくせに……。
「ちょっとは暇になったのかな?」
「はっ、次のレストランの予約があるので行かねばなのニャ!」
はいはい、どうぞ行ってらっしゃい。
ほどなくして謁見の間に通された。
左右に兵士が立ち並ぶ中、赤い絨毯を進んでいく。今までになく緊張する。
「△○▼☆※▲◎★●!?」
……ああ、やっぱり。
ふうとため息をつきながら、横にいるヒロさんに、私と同じように、頭を下げて膝をついて欲しいと小声で伝えた。
わめているのは、王の母親だ。もはや言葉になっていない。
そりゃそうよね、ウサギのぬいぐるみと、その横には亀がいるなんて……。
あ、泡拭いて倒れちゃった。抱えられて運ばれていく。
「さて、わが友よ。今日はどのようなご用件かな」
なにごともなかったかのように王は話し始めた。
……うん、でもやっぱり、ちょっと口元がひくひくと動いてるな。
兵士たちからも、クスクスという笑い声が聞こえていた。
「本日は王様にたってのお願いに参りました。ここにいる者、世界の音楽を研究し、この先の見えぬ世の役に立てたいと願っております」
「ほう。音楽でこの世が救えると?」
「左様でございます。特に打楽器は、人々の心の解放につながると申しております。とある掟により身分を明かせぬため、このような格好をしておりますが」
心の解放っていっても、要はこの間のどんちゃん騒ぎのことなんだけどね。ええい、口から出まかせ。押し通しちゃえ!
「して、願いとは?」
「この者、王立楽団の噂をききつけまして。ぜひ、王立楽団の方に打楽器を直接習いたいと申しております」
「王立楽団の者に習いたいと?」
「失礼ながら、王様!」
白い口髭の男が口を挟んできた。タキシードで身を固めている。それなりの高齢なのだろうが、背筋がピンと伸びている。さしずめ侍従長とでもいったところだろうか。
「王立楽団といえば音楽を通して神に仕える者。日々の研鑽は片時も忘れてはなりませぬ。演奏会以外での一般の民との交流は控えるべきでございます」
王様は少し考えるような顔をした。そして突然、笑いながら話し始めた。
「まぁ、良いではないか。はっはっは。打楽器といえば、ひとり若い者がいたと思うが。習うだけでなく、誰かに教えるという経験も必要ではないか?」
「し、しかし……」
「わたしも兵に訓練をつけていることで、上達することもあるぞ」
「王様! それは何卒やめていただきたいと、わたしは何度も何度も口を酸っぱくして申し上げておるのですがっ!」
「まぁ、良いではないか。さきほど一般の民と申したが、勇者のお知り合いであれば、もはや特別な存在となろう。至急手配しよう」
「王様っ! もうわたしは知らんですよ」
男は白い口髭が真っ赤に染まっているのではないかというほど、怒りを露わにしていた。
「ありがとうございます」
わたしは頭を下げた。
再び顔を上げる。王様はわたしの顔を見ていた。
これは……。
そうよねぇ。前回亀の像を持ってここに来て、次は本当に亀を連れてきちゃったのだから、なにかウラでもあるんじゃないかと勘繰られても仕方ないわよね。
頭のいい王様なんだもん。
でも、今回はそんなんじゃなくて、ただ、わたしのとこのバンドをなんとかしたい、ってだけのこと。ああ、ごめんなさい。もしまた襲われたら必ずすぐに助けに行くからね。
「また、要望があれば、いつでもお越しください、勇者さま」
そう言って、微かにウィンクした……ように見えた。
指示が届いたのか、控室に戻るとすぐ、タキシードの男に連れられて、ひとりの少年がやってきた。目にかかるほどの髪で、ボサボサ頭だ。
「うわ、なにこのウサギと亀……」
表情を一切変えず、ぼそりと言った。なんか、めっちゃ性格暗そう……。
「王立楽団の打楽器担当、ダンテ様です」
タキシードの男はそれなりの年齢だと思うのだが、この若い少年のことを「様」をつけて呼んだ。王立楽団員というのは、相当な身分なのかもしれない。
「で、ぼ、ぼくに演奏を教えろと?」
「王様のご命令です」
「あっ、そ、そう」と言ったきりしばらく黙りこんだ。なんとも気まずい空気が流れる。
こちらを見ることもなしに、さらに小さな声で再び口を開いた。
「いいけど、あんまり他の人と一緒にいるのは好きじゃないんで」
この場の重い空気をかき消すかのように、ヒロさんが大声で言った。
「どうぞ、よろしくですー! 教えていただきますぅ!」
「あっ、この亀喋るんだ」
眉毛一つ動かすことなく、ダンテくんが言った。
城に出入りするのは大変だし、この姿なので、まずは一週間ほど泊まり込むことになった。
なんだかとても不安だらけだったが、とにかく、一歩前進……よね?
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