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第32話 ツーバスだからっ!

『傷だらけの心を抱えて ひとはなにを想うの?

 明日の光も見えないままに 悲しみさえ蓋して

 優しさまで吹き飛ばされそうな 荒れ狂う叫び声

 凍える肩ならば抱きしめたい わたしはいつも傍にいる


 まだ進めるだろうか もう一歩だけでも前に

 この身体が壊れようとも あなたを助けたい


 全てを飲み込む嵐だって 消せないほどの炎になろう

 空と大地の果てでさえ 暖かな風で包みたい

 どうか消えないで 希望はたとえわずかでも

 私はもっと強くなれる 運命を信じてる』


 強大な敵を前に身を投げ出して夫である勇者を救ったという、その妻の神話をもとにしている。勇敢な妻、というのも数は少ないがそれなりにいるし、自ら先頭に立って戦う女性の話だってある。前の世界はかなりの男尊女卑で苦労しっぱなしだったけど、その点は問題なさそうだ。


 この曲を歌うならメイシャ。彼女しかいないわ。説得力のある声。低音に魅力があるのだけど、最近は高音も伸びてきて音域が増えている。持って生まれた声帯の長さでどうしてもこれ以上は低く出せない、という限界はどうしてもあるのだが、高音というのは練習すれば相当高いところまで出せるようになる。

 もちろんこの曲だと、か細い高い声では合わないので、しっかりとした太い声で歌ってもらいたい。難しいだろうけど、彼女にとってチャレンジになる曲にしたいなとも思う。

 そんなことを伝えた上で、カズくんに作曲をお願いした。


「そんな穏やかな曲じゃないの、もっともっと激しく!」


 カズくんが持ってくる曲に何度も何度もダメ出しする。


「だって、ツーバスなのよ!」


 カズくんにはツーバスの意味は通じないようだったが、段々と荒々しい曲になっていき、イメージに近くなってきた。でも、もっとよ、もっと。


「はぁ。こんな曲、今までにないですよ……」


「いいの!」


 同じようなやり取りを幾度となく繰り返すのだが、どうしてもなかなか完成しない。


 アンディさんがいてくれたならな、と思ったりもするのだが、ダメダメ、今はカズくんを信じなきゃと心に誓う。カズくん、がんばって!



 ヒロさんはその後、もともと大工という職人気質の性格からか、ドラムに一心不乱に取り組むようになっていた。無理やり巻き込んでしまったものの、一度取り組んだからにはやり遂げなければ、というような気迫さえ感じる。弱音も一切はかない。


 この町では、音楽というものが聞こえてこない。子供たちが歌っているくらいなものだ。

 楽器の演奏者は隠れているし、ゴードンレストランと同じように音楽を流す店も数えるくらいはあるのだが、毎日やっているわけでもない。それでもヒロさんは、熱心にゴードンさんやわたしを誘って見に行っていた。レストランということもあるし、亀一人というわけにもいかないので、誰かが必ず付き添うようにしたのだが、やはりそれでも店の中では目立ってしまう。


 変なカッコした客だ、ということだけではない。ゴードンレストランの演奏家が仲たがいかなにかでいなくなった、という噂はすでに町中に広まっていた。引き抜きを恐れてか、私たちがレストランの予約をすると演奏がキャンセルになったり、予約したにもかかわらず入れなかったり、ということも多かった。いやんなちゃう。

 それにもメゲず、ヒロさんは熱心に他の人の演奏を聞きに行き、毎日のように刀の鞘を振り回していた。


 もう少し使いやすいスティックに替えたらいいんじゃないと思ってはいるのだけど、融通が利かないというか、ヒロさんはかたくなに刀の鞘にこだわっていた。これも職人気質といういうやつなのだろうか。

 ただ、一回折って騎士のジャンさんから怒られる、というより、泣き叫ばれてからは、大工の腕を活かして自分で作るのだけど、やっぱり刀の鞘にするのよね。そこはこだわらなくていいと思うのだけども……。


 そんな熱心さで、またたくまにドラムの腕は上がったのだが、とはいえ、始めたばかりで一足飛びにマスターできるはずもなく、さすがにステージに立つにはまだまだ道のりは遠そうだ。

 歌の「上手さ」のみで勝負するわけではないので、バックを固める演奏家、特にリズムセクションはとても重要なのだ。わたしがドラムも叩けたなら教えてあげられるのにな。可愛くて歌もダンスも、ドラムも上手い女の子ってリクエストしておいたら良かったのに。


 ケットシーを呼び出して、ドラムも叩けるようにして、とお願いしたが、

「後からはもうだめだニャ」

 と言われてしまった。なによ、マヌカンは後から教えてくれたじゃない!


「あれは魔法だからニャ」

 ケチ。

 とはいえ、歌と一緒で、いきなり上手くなったって教えてあげられるわけじゃないかもね。


 前に一緒にやっていたドラマーが音楽教師になったという話が聞こえてきたので、教えてもらおうと思って行ってみたものの、亀の姿を見るなり、「おれをバカにしているのかー!」と烈火のごとく怒鳴られて追い返された。


 うーん……。

 これはもう、王様にお願いするしかないかしら?


お読みいただき、ありがとうございました!


ブックマークなどなど、まことにありがとうございます。

更新の励みとなっております!


引き続きよろしくお願いいたしますm(__)m

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