第31話 ヒロさん
いつものように三人娘のレッスンをしていたとき、ぶどうジュースで酔っぱらった亀たちがいきなりどんちゃん騒ぎをはじめた。
歌にあわせて、食器だの調理器具だのを叩いて、ノリノリである。
料理人のリチャードさんが調理器具で遊ぶなと大声で怒鳴るのもお構いなしに、笑いながら踊っている。うん、この曲、いいのよね。わかるわ。
亀三人娘もいつもより歌がはじけてる感じ。
はっと気づいたのだが、大工のヒロさん。豪快に「がはは、がはは」と笑いながら手を叩いているのだけど、あれ……? 半端なくリズム感良くない?
慌てて演奏を止めて、ヒロさんに音楽をやってたかと聞いたのだけど、
「そんな真顔で急に言うなやー。一気に酔いが醒めちまうじゃないかよぉ」
と取り合ってくれない。
わたしは体を魔法で人間ほどに大きくさせた。
無理やりドラムセットの前に座らせて、ベースと一緒に叩いてみるようお願いする。
ベースの演奏が始まる。
ヒロさんは……。
ヒロさんは……?
ん?
……緊張した面持ちのまま、一切微動だにしなかった。
「こんなんやったこともないし、そんな真剣な顔してガン見されてりゃ、なんも動けんてー」
ドラムはおろか音楽もやったことがないという。だいいち、亀は腕がとても短いので、手を交差にして叩くこともできないようだった。
わたしは、ドラムセットをヒロさんの手の届く範囲に設置し直そうとするが、それでも足らない。スティックが短い。ん-、なにかないかと周りを見渡す。
あった!
細身の剣のサヤを二つ、やはり魔法で大きくして、手に持たせる。今度は亀の騎士のジャンさんがぶつくさ言いそうになったのでキッと睨みつけたら黙った。わたしの魔法の威力は知ってるものね。
サヤを持たせたとしても交差するのがダメなようなので、ハイハットとスネアの位置を逆にしたり、シンバルをもっと手前に寄せたり、それでもダメで途中で折り曲げちゃったりと、それはそれは変な形になったが、なんとかこれで叩けそうだ。
メイシャにもっともっと、ぶどうジュースを持ってくるように言う。
「こんなんじゃいくら飲んでも酔っぱらえないよぉ」
というヒロさんにわたしがお酌をしつつ、出来る出来るよーと何度も言う。
「そうかね、ヒック」
酔っぱらってきたな! さすがわたしは可愛い女の子!
亀三人娘に歌わせて、他のみんなにもぶどうジュースを振舞いつつ、盛り上げてもらった。
「てへへへ」
と恥ずかしそうに笑いながらもヒロさんはドラムを叩きはじめた。
そこに合わせてすかさずカズくんがベースを入れてくる。
うっ。
……。
めっちゃいいじゃん!
久しぶりにドラムとベースが一緒に鳴っている音を聴いたせいだろうか。楽しい歌のはずなのに、なんだか涙が出てきた。
叩き方も適当だから音も良いとはいえないし、馴れないことさせられているってことなんだろうけどもリズムも当然ズレている。
でも、楽しい!
さらにノリノリになったヒロさんはなんと尻尾でもバスドラを叩き始めた。
ああっ、ツーバス!
その時あたしは咄嗟にひらめいて、慌てて頭に浮かんだ歌詞を書き留めた。
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