第28話 アンディさん
嬉しいことの反面、困ったことも起きていた。
この国での楽器の演奏者はとても厳しいが、当然かもしれない。神へ感謝と尊敬や王家への忠誠などを、音楽をやる意義だと考えているのだ。決してショーではなく、宗教的な儀式の一つとして捉えている者が多い。
ステージングの練習としてバンドを入れての演奏も行っていたが、快く思わない演奏者がいた。
カサーマと呼ばれる前世でいうピアノによく似た楽器担当で、名前をアンディと言う。腕は確かだ。小さなころから頭角を示していたものの、若い頃はほとんど人前で演奏することなく、懸命に練習を重ねてきたという。すでにもう50歳を超えているそうだ。
とはいえ彼が特別というわけではなく、楽器を演奏する者は似たり寄ったりの人生のようだ。音楽大学院というものがあり、そこで試験に合格した者は王家に抱えられる。国家的なイベントなどがある際には、その王立楽団が演奏をすることになっている。
しかし試験は非常に厳しく、また、楽団に空きが出来ない限り加入することは出来ない。
あぶれたものは音楽教師となる者が多い。しかし必要とされる教師も数に限りがあるので、ほとんどの者が音楽を辞め、他の職業に移るらしい。非常に狭き門である。
アンディのように街中のレストランで演奏する者もいるが、あくまで王立楽団への思いを捨てきれない者たちが、日々の稼ぎのために仕方なく演奏しているようだ。
仕方なく演奏しているとは言うものの、どこかで演奏すればそれを見ている者がいる。下手な演奏をしてしまうとバッテンをつけられてしまい、王立楽団への道が遠のくことになる。そのため、若い頃は滅多に人前では演奏しないという。
とまぁ、色々と言ってみたけども、まだ素人さの抜けないわたしの教え子たちをバカにしているのよね! やんなっちゃうわ。
とはいえアンディの音楽的な才能はズバ抜けていた。演奏においても正確無比で間違えることがないだけでなく、たまに歌で私がけしかたりしてもキチンと乗ってくる。そういう時は戦闘でもしているようでワクワクする。まぁ、いつも以上に疲れちゃうけどね。
なので滅多にやらないけども、そういう時はお客さんもとても盛り上がる。彼はそういうの好きじゃないっていうような顔をするんだけど、実はいつも以上に活き活きとした演奏になるの。本当はそういうの好きなんじゃないかなぁ。
作曲の腕も確かなのよね。わたしは作曲ができないので歌詞を書いて曲を作ってもらうのだけど、誰と組むよりウケる曲を作る。奇をてらわず、しっかりと起承転結を作るっていう基本的な構成を守った上で、必ずハッとする箇所を用意してくれるのが凄いなぁと思うところ。
うーん、でも、逆に彼のそういうところが王立楽団に選ばれない理由なのかもしれないっていう人もいるの。自由すぎるらしい。
でも心の中では、こんな風に自由にやるってのが本当は好きなんじゃないかなって思ってたのね。楽しんでくれているんじゃないかなって。
そんな時に事件は起きちゃった……。
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