第26話 亀の恩返し
「……ということがあって、勝手な言い分ではあるんですけど、しばらくの間、ここに住まわせていただければと」
ゴードンさんとメイシャにはウソ偽りなく、きちんと話しておいた方がいいのではないかと思った。40を超える喋る亀が一気に増えたとなったらさすがに隠し通せないというのもあるが、それよりも、きちんと話せば通じる人たちではないかと思ったのだ。
もちろん、私が海底に行って助けたということではなく、海岸に行って見つけた、ということにはしたけどもね。
「お手伝いできることがあれば、力の限りやりますのでどうか」
「ご迷惑かけないようにいたしますので」
亀の女性たちは口々に言った。
「なんだかすぐには理解できない話なのですが、うちとしては大歓迎ですよ。ただ、これだけの数だと、ウチじゃ狭いですかね……」
ゴードンさんはそういうと早速、町の中にある4階建ての建物をまるまる借りてきた。
「最近家賃が安くなって余裕ができたもので」
そうは言うものの店の経済状態からすればかなりの赤字になりそうだ……。
そんなあたしの心配は杞憂だった。
亀たちを人間くらいの大きさにして、お店の手伝いをしてもらうことにした。
喋る亀などというのは、人の想像を超える。
きっと中に人間がいるのだろうと客は考える。
いわゆるコスプレ的なものとして認知された。
亀の女性たちはみな愛想もよく、また、とても上品である。会話も上手い。そりゃそうだろう、亀とはいえ元貴族に連なる婦人や娘たちである。きちんとした立ち居振る舞いを身に付けている。戻れる国もなくなったため、懸命に人間というものを理解しようと、努力もしている。
それだけではない。
亀の料理の中には、今まで人間の世界にはない新たなものもあった。
新たな深海の素材やその素材の組み合わせ方だけではなく、圧力の差を利用して調理するという調理法や魔力を用いた調理法など。これらは深海の亀の国ならではのものだった。
魔力調理は、かなりわたしも手伝わされたけども……。
一気に評判を呼び、ゴードンさんはもう一店舗、ゴードンレストランの支店を出すことになった。
ほどなくして、亀の男性たちが新たな地を見つけたとの連絡が来た。
さすが、海は広い。
以前ほど広大で優良な土地ではないということだが、数も減っていることだし、再出発としては申し分のないところだという。
亀の女性たちが全員行くのかと思いきや、何人かは残りたいと言い、また、戻った者も引き続き働きたいと言った。男の中でも料理好きな者は手伝いたいとも。
これがまた、すごい。
今までは家庭料理的なものが多かったのだが、本格的な亀の国の宮廷料理まで出せるようになった。さらに支店がもう一店舗増えたほどだ。
で、タクシーじゃないんだけども、毎日のように亀たちを送り迎えをするようになってから、転移魔法でほとんど疲れも感じなくなった。レベルアップしたのかもしれない。まだまだ強くなれるのかしら……必要ないけども。あは、笑えてくるなー。
第3章「トータ族」完結です。
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