第24話 じい
「姫が無事であれば、もはや我はなにも思い残すまい。そなたよ、よくぞここまで参られた!」
聞けば、この亀は姫の教育係のようなもので、小さな頃からなにかと面倒を見てきたのだという。
いわゆる「じい」ってやつかしらね。
「ちなみに王様、つまり姫の父親はどうなりましたか」
「ふむ。真っ先に処刑された。姫の兄弟も含めてな。なぜかこんな老いぼれがみっともなくも生き恥をさらしとるわい」
「私は、みなさまをお助けしたく参りました。また、同じく助けられたら、と思う者たちがいらっしゃいましたら、ぜひお教え願いたい。あ、ただ、一度に運べる数には限りがあります」
まぁ、手に抱えられる数だけってくらいかしら。何度か往復しても良いけどもね。
身体を小さくしちゃってるので、一度に両手2匹ずつくらいかな。いや、亀も小さくしちゃえば10匹くらいずついけるかも。
「して、その後、どうなされるおつもりじゃ?」
「姫は、襲われたお城を取り戻して欲しいと申しておりましたが」
「それは不可能じゃ。たとえこの城を取り戻したかて、もはや民衆は見向きもせん。すでにこの国は我らを必要とせんのじゃよ」
確かに。今まで見てきたことを合わせると、このじいの言っていることは間違いない。
「しかし、姫様をお一人にさせるおつもりですか?」
この言葉は心に届いたようだ。
「わかった。わしは最後でいい。この階に居るものはすべて、姫と何らかのかかわりを持つものじゃ。きっと姫様の心を癒すじゃろうて」
「わかりました。では」
一人ひとり話をしながら連れ出すのも面倒なので、とにかくじいを一旦小さくして檻から出し、また元の大きさに戻してから、片っ端から話をさせるようにした。
みんな泣きながら、感謝の言葉を口にする。
10匹ばかり檻から出し、小さくして手に抱えワープする。
「わっ」
変顔をしてたトータ姫が、私の姿を見て慌てた。
「姫様!」
小さくなった亀たちが口々に姫に向かって言う。
「おお、おお」
私は再び元の大きさに戻してやり、再度、牢にワープした。
5往復くらいしただろうか。
だが、まだまだ、人は残っている。
魔法というのは、使うと体力を消耗するのだということに気づいた。
体力というより、魔力なのかな。
身体が少し重い。もしかしたら火の魔法とかに比べて、ワープとか体を大きくしたり小さくしたりっていうのは、結構魔力を使うのかもしれない。今までになかった感覚だ。
じいは、
「ほれ、おっきくなぁれ」
「こりゃ、ちっちゃくなぁれ」
「魔法ってのは、すごいもんじゃのぉ」
などと愉快そうに魔法を受けて大きくなったり小さくなったりしている。ちょっとはわたしの苦労ってやつに気づいてくれないかなぁ。
まぁでも、みんなが助かるのは嬉しいはずよね。
でも、もう体が重くて重くてしんどい。
しかし、ここでやめるわけにはいかない。
出来ることなら、強硬派のじいさんたちも、命だけは助けてあげたいし。
またワープした。
今までと同じように、じいから話を聞いた10匹を小さくする。
「む、なんだお前は!」
しまった、看守に見つかった。
「脱獄だー。みな集まれー」
くっ。とにかくワープだ。
姫の所に着いた者を、元の大きさに戻す。
「トータちゃん、今、看守に見つかっちゃった」
警戒が恐らく厳しくなるだろう。さてどうしたものか。
一旦透明になって、ワープしよう。
檻の階は、上へ下への大騒ぎになっていた。
手には銃を構えている。
まぁ、銃ったって、私は強いから跳ね返せるかもだけど、亀に当たったらどうにもならないわね。
いちいち小さくしていくのも体力が持ちそうにないので、そのまま牢にいた2匹をそのままの大きさで両脇に抱えてワープした。
おおーという歓声が巻き起こる。
困ったな、目を盗んで逃がすのは大変だ。体もしんどいし。
とにかく少し休もう。警戒も少し経てばスキが出るかもしれないし。
その私の考えが間違いだったことに、その後すぐ気づくことになる。
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