第21話 民主化
国では、民主化のお祝いがあちこちで盛大に行われていた。
ようやく王政を倒して民衆の時代になった、と。
亀たちは満足そうで、また、みなが笑顔であった。
――さすがにこれは姫には見せられないな……。
王、すなわち姫の父親だが、聞く限りでは良い王様としか思えなかった。
民を思い、国を思い、平和を心から願っているとしか思えなかった。
だが、人々のこの顔を見ると、そんな一方向からの考えでは、国を続けていくのは難しいのだということに気づかされる。
もちろん、一部の権力者が悪事を働いていたのかもしれない。
だが、全ての権力者が悪者というわけでもないだろう。
ルネボレーの王が恐れていたのは、こういうことなのかと、初めて腑に落ちた。
もしかしたら今のこの喜んでいる民衆も、民主化に嫌気がさして、また新たな王様を作り出すかもしれない。
民の心は空に浮かぶ雲のよう……。
なるほど。すべての人が良くなるようにしたとしても、それでもなかなか思うようにはいかないってことね。
ただ、もし、捕らえられて殺されるような運命の人がいるのなら……。
せめて命だけは助けてあげたいわ。
特に姫と親しい人であればなおさら。
私はまず、さきほどの広場に行ってみた。
広場は宴会状態であった。
銃殺されているのに、この浮かれようってのも、あんまりぞっとしないわね。
そう思っていると、スピーカーを使って演説を始める亀がいた。
たとえどんな悪亀であっても
たとえどんな罪亀であっても
亀が亀を裁けるだろうか?
そのような権利は誰も持ち合わせていない!
法のもとにというが、その法は誰が作る?
しょせんは亀ではないか!
一部の亀ではないか!
正義を過信してはならない!
ただちにこのような愚かな行為をやめよ!
そう叫んでいる集団を、遠巻きに笑いながら眺めている連中もいる。
ただ、決して武力で排除したり、争いにはなったりということはないようだった。
このことだけでも、たしかに民主化されたということがわかる。
誰もが言いたいことを言っているだけだもの。
多分、ここで叫んでいる亀たちは、言っていることを聞く限りでは、元王族とか、王政に戻せ、とかいう人たちではないのでしょうね。
彼らのようなことを言う人が増えたらそうなるし、逆にまた減ったら逆戻り。
しょせん、どちらが正義なんて、決められるものではないのね。
ああ、王様とか民主化とか、こんな場に立ち会っちゃったせいで、今まで考えたことないようなことまで考えさせられるわ……。
せめて歌は、政治とか宗教とかと関わりないものにしたいわよね。
言いたいこと言えるような……。
でも、それもやがて政治や宗教になっちゃうのかしら。
ま、ちょっと今は保留っと。
とにかく、姫がこれ以上悲しまないように、助けられる亀だけは助けたいわ。
トータのお父さんは、まだ生きてらっしゃるかしら……。
広場の横にはお城があった。
捕らえられているとしたら、ここかしら?
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