第20話 ケットバシー多忙中
「入り口の門の所、あの二つの紋章が見えるかしら?」
トータ姫が言う。ひとつは亀の紋章。もう一つは、なんだろう、オオカミのようなタテガミをつけた人型の紋章が見える。
「魔族よ」
魔族って、えっ、トータ族って魔族じゃないの?
「トータ族はトータ族よ、あんなのと一緒にされちゃかなわないわ。なるほど、襲ってきたのは魔族が変身した姿だったのね」
国は、人間との共存を図る穏健派、トータ族の神のみを信奉する強硬派、そして魔族との共存を図ろうとする魔族派で3つに考えが割れていたらしい。
その微妙なバランスの中で、王、すなわちトータの父親が、出来る限り穏便に治めていたのだという。
「もしかしたら、強硬派が魔族派と手を組んだのかも……。いや、それはないわね。あの強硬派が魔族と組むなんてありえない……ただ、あの大臣ならもしかして……」
平民出身の大臣で、とにかく権力に執着する者がいたそうだ。強硬派に属していたが、彼なら魔族と手を組んでまでもクーデターを起こしかねないと言った。
中の様子をもっと知りたいのだけど、さすがに姫と一緒に乗り込むわけにはいかなそうね。
私も……さすがに大きすぎるわ。これも魔法でどうにかならないかしら。
ああ、ケットバシーにまた教えてもらわないと。
「また呼んだニャ……ニャっ?」
ケットバシーは口からブクブクと泡を吐きだした。
「まぬかんーっ!! はぁはぁ。海の中に居るなら居ると言ってくれなきゃ困るニャ。危うく死にそうになったニャ」
いや、あの、マヌカンって、あんたも使うのね。ってか、海の中で息が出来ないの? それとあたしもう2回ほど死んでるんだけども……。
ツッコミどころが多すぎてなにも言葉が出てこなかった。
「で、何の用だニャ。一日2回はきついニャ」
「あ……ごめんなさい、お忙しいところ。あの、魔法って、なんかマニュアルとかそういうのないかと」
「む、2回も生まれ変わってるのに、そんなことも知らないニャ? んーと、これは生まれ変わるたびに違うニャけど、んー、君の場合は、今回耳を引っ張るようになってるニャ」
耳を引っ張る? やってみた。あっ、目の前に本のようなものが出てきた。
「これがマニュアルニャ。インデックスつき、検索機能付き、逆引き用語辞典付きの至れり尽くせりマニュアルだニャ」
こんなものがあったとは……。
あれ? もしかして最初に生まれ変わった時も魔法使えたってこと?
「なに言ってるニャ、人が魔法使えるのは当たり前だニャ」
え、もしかして生まれ変わらなくても魔法使えたってこと? なんで早く教えてくれない!?
「聞く人あんまりいニャいから……。聞かれてもいないのに答えていたらますます忙しくなっちゃって禿げちゃうニャ。禿げたら恐ろしいニャ。恐ろしいと食事がおいしくなくなるニャ。それは絶対ダメニャ」
まったく……。バリカンで刈りまくってやろうかしら。
「次のレストランの予約時間がギリギリだニャ! 急ぐにゃ。またニャ!」
ケットバシーはそう言うと消えてしまった。
あんた、忙しいって、もしかして食事の合間に仕事してない?
まぁ、いいや。ええと、小さくなる魔法は……と。
ん、変身する魔法もあるのね。
たしかに逆引き検索は便利だニャ。
……ニャ?
口癖が移ってしまったわ。いけないニャ。
……もうっ。
トータ姫の身を案じて、地上の町に据え付けた水晶玉をここに置くよう伝えた。もう一つを私が持つ。もし姫に危険が迫った場合は、即座に助けに行けるように。
そして、姫との約束を果たすべく、わたしは再び上空を泳ぎ、人気のないところに降り立った。
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