第19話 海底都市
しばらく潜ると、陽の光が一向に差し込まなくなり、辺り一面真っ暗な世界となった。
姫の目がピカッと光り、迷う素振りもなくさらに深くへと進んでいく。光を頼りに私もさらに潜る。
すると、急に視界が開けた。
「気を付けてね、触るとしびれるわよ!」
なにが? と聞くまでもなく、光源が大量のクラゲであることがわかった。
「ここが太陽クラゲ層。深海の太陽みたいなものね」
クラゲは一定時間光るとくたびれて眠る。眠る間は光らないのだそうだ。そしてまたしばらくすると起きて光りだすらしい。たしかに地上でいう太陽のようだ。
クラゲの間を慎重にすり抜けてしばらく進むと、海底が見えてきた。
そして、大きなすり鉢状の窪みを発見する。
「あそこが私の国」
まだかなり遠かったので単なる窪みくらいにしか見えなかったが、近づくにつれ、その大きさが理解できるようになった。
ルネボレーほどではないが、メヒスキの町よりは大きいかもしれない。
近づくにつれ、街の様子が見えてきた。小さな亀が歩いている!
全てのサイズが亀サイズなので、建物などがミニチュアサイズだ。ただ、車も走っているし、電車も走っている。もしかしたら地上よりも整備されているかもしれない。
「すごいわ」
「動力は魔法よ。地下から湧き出てくるわ。ただ、無限ではないようなのだけど。このすり鉢状の地形の下は魔力が強いようで、こういう場所に国や町を作るの」
「ところで町の様子はどう?」
そう聞くと、姫はちょっと悲しそうな顔をして言った。
「変わりない。なにも……」
良かったじゃない、と言いかけてやめた。
破壊しつくされて廃墟のようになっていることも予想していた。その時にどう言おうかばかり考えていたが、全く変わりがないということは、姫がいようがいまいが、なにも変わりがないのだということか。
それはそれで、思う所があるだろう。
「しょせん王だ姫だなんて言ったところで、日常生活には影響ないってことかしらね」
トータ姫が自嘲気味言ったその直後、あっと大きな声を上げた。
視線の先には広場があり、目を凝らしてよく見ると、括られているのだろうか、まるで地上でいう木のような形の海藻にもたれ掛かっている一匹の亀が見えた。
その前には弧を描くように取り囲む大勢の亀がいた。手に持っているのは……銃か?
さらにその周りを多数の亀が取り囲んでいる。
姫のスピードが上がる。私は引き離されないよう、懸命に泳いだ。
「だだだだだっ!」
まだかなり離れていたが、銃声のような大きな音が聞こえた。
その後に、銃声に負けないような大きさで高らかな笑い声が聞こえてきた。
笑い声の主はどうやら、周りを取り囲んでいる亀のようだ。
姫の速度がふっと止まった。
「今の、レジスタンスのNo2のようだわ」
「レジスタンス?」
「人間との共存を考えている中でも最も急進派の人たち。ただ、彼らも確かにテロを起こしたりと、決して許されるような振る舞いではなかったのだけれども……」
なにがあるかわからないから、少し離れて降りましょうと私が言うと、放心したような顔つきの姫が、こっちの方に町の入り口があるわ、と言った。
お読みいただき、ありがとうございました!
ブックマークなどなど、まことにありがとうございます。
更新の励みとなっております!
引き続きよろしくお願いいたしますm(__)m