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第12話 歌

 王家の紋章の効果は絶大だった。


 店頭に飾った時から、悪口を言ったり嫌がらせをするような者はいなくなり、予約を待つ貴族も、予約が取れたことだけで満面の笑みを浮かべる。また、今まで見たことのない高貴そうな顔もちらほらと混じるようにもなっていった。


 特にステージのある日の予約はプレミアムチケットとなっているようで、裏で何十倍もの値段で取引されるようにもなったらしい。ゴードンさんは予約の際に顔も覚えるようにし、また、そういうノミ行為は犯罪として、憲兵が取り締まるように法律まで変わった。


 謁見の日から、たった1か月程度の出来事だ。


 私はその間、色々な歌を覚えていく中で、この世界の歌はだいたい三つに分けられることに気づいた。


 一つ目は、神への感謝と尊敬。

 このような曲を歌う時は、酒場とて静まり返る。貴族の中には食事中であっても箸をおき、背筋を伸ばして微動だにせず聞き入るものも多い。

 冒険者であっても、さすがに声を出す者もいない。喋っていると睨まれたりもするようだ。歌が終わると泣き出すものもいて、なかなか次の歌に入れなかったりもする。


 二つ目は、王や王家の歴史的な話がもとになっているもの。

 やはりこれも酒場が静かになる。

 冒険のような歌詞のものは小さな子供などは目をキラキラさせながら聴いているが、やはり、静かである。ただ、終わった後の拍手が一番大きいのは、これだ。


 最後の三つめは家族に対する愛を歌ったもの。

 愛する人、父母への感謝とか子供がかわいいとか。ここでは大合唱になることもある。


 神とか王家とかはよくわからないし、やはり盛り上がるのは伴侶や恋人への愛を歌ったものになるので、どうしてもこういう歌がメインになる。


 間に王家についての歌を散りばめながら、最後は神への歌で締める、というのが定番のプログラム構成となっていた。


 ちょっと不満なのが、コミカルな歌や可愛らしい歌というか、ポップな歌というか、そういうアイドルっぽい感じの曲がないの。


 総じて、ごく普通の個人的な歌というのがないのよね。ん-、ずっと壮大なバラードばっかり続くような感じと言ったらいいのかしら。


 あと、不思議だなと思うのが、自然のことを歌ったものもないのよね。春の小川みたいなのはないの。

 あまり、自然に対しての感覚というのかな、そういうのがないようなのよね。虫の声とか言っても雑音にしか聞こえないようだし、大きな山が雄大だとか、そういうものもないらしい。

 春の小川で皆が涙したのは、モンスターから救われた喜びだったのかな? 少なくとも歌詞ではなかったのでしょうね。


 弱いけどもワタシ頑張ります、みたいな歌はないかなと探しても、王家の者が弱いわけはないし、愛はすべて偉大なものになっちゃうようで、皆無。こういう感覚って、この世界には通用しないのかなぁ……。


 メイシャならきっと、この世界の歌というものに合っているような気がする。

 もしかしたら、すぐにでもステージに立たせてあげてもいいかな。


 でも、レイナが歌えるような歌も、あってもいいように思うのよね。

 可愛らしくて、思わず応援したくなるような歌。

 なんとかならないかな。


 そんなことを考えながら一か月ほど過ぎたある日、ぎぃと扉が勝手に開いた。

 誰もいないのにドアが開いたので驚いたが、そういうわけではなく、下の方にちいさいのがいた……。


 王との謁見の日以来、なにか忘れ物をした気がしていたがようやく思い出した……。


「ひどいわ……」


 そこにいたのは涙を流す小さな亀だった。名前は……トータ姫だったわよね。


「あーん」と泣きながら私の胸に飛び込んできた。


「ごめんなさい」


 謁見の間の控室はその後人の出入りもなく、椅子に縛られたのをなんとか自力でほどいて抜け出してきたのだという。一か月もの間、飲まず食わずだったのかしら……。


 と思ったら、お城の中で贅沢な食事を堪能してきたようだった。

 あんたねぇ、まったく……。


 呆れている私に、姫は忘れて行ったあなたが悪いのよと言った。


 確かにそれは間違いない。もし抜け出せなかったら大変なことになっていただろう。


「いいわ、許してあげる。でも、私のお願い聞いてよね!」


第2章「ルネボレーの街」完結です。

ここまで、お読みいただき、ありがとうございました!


ブックマークなどなど、まことにありがとうございます。

更新の励みとなっております!


引き続きよろしくお願いいたしますm(__)m

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