優香と荒川を渡れ
日付がかわってしまった。
今日池袋で優香と初デートだが、家に来たいと言われた時のために、部屋の片付けに追われていた。
神経症特有のこだわりがあるため、押し入れに詰め込むだけの作業でも、相当なエネルギーを要する。
押し入れの中でも配置にこだわるため、結局一睡もしなかった。
掃除中も、ひっきりなしに優香からメールがくるものだから、その対応と自分の「イチモツ」を落ち着かせるための処理で、疲労困憊であった。
優香からのメールにも
「面倒くせーな、あのバカ女」
などと毒づく始末だった。
出発まで、身支度にも、かなり時間がかかる。
ヒゲを納得いくまでT字カミソリでそるので出血してしまう。
この日のために買ったワックスを手直しする度つけたので、思った様な無造作ヘアができず、極端に立ちすぎるか、ベタッとつぶれるだけだった。
服装も考えれば考えるほど、おかしな格好になり、優香が見たら失望しないかと不安で、悠太にとって外出することは至極、困難極めるのだった。
コンセント、ガスの元栓、鍵の施錠の確認も彼を待ち受けている。
ようやく表に出たときは、疲れを通りこして発熱してる様に顔がほてり、眠気は少しおさまっていた。
いつもの様に周囲に気を配りながら慎重に歩くから、優香までたどり着くのは簡単なことでない。
堀切菖蒲園駅ガード下のトンネル内のホームレスを、いつも通りいちべつする。
自分より立場下の人間を見ては、自身の崩れているメンタルを少しでも落ち着かせようとした。
路上、ホームに嘔吐物や唾はないかと探すのも悠太の習慣だった。
踏みたくないのが最初にくる理由である。
上野行きのホームにゲロを片付けた形跡をみつけてしまい、優香との食事中に、睡眠不足からくる体調不良で、彼も吐いてしまうのではないかと、新しい不安が生まれる。
なぜ唾も探してしまうのか。
彼には女性の唾に執着してしまう特殊な性癖があって、彼女達の年齢にこだわりはあるが、できたら顔に吐いてもらい、それが乾いた時の匂いによっては、えずくかもしれないが、そんな後悔をしてみたかった。
男の唾にほぼ決まっているが、つい目がいってしまう悲しい性なのだった。
上野行きの電車が到着したので、乗り込んだことを、優香にメールする。
正面にカップルが座っている。
普段と違って、気持ちに余裕がある。
いつもは談笑してるカップルを目にすると、悠太の顔、髪型、ファッションセンスを話題に、馬鹿にして笑っていると思い込む所があり、どうしようもなく、たちが悪かった。
ある日は千代田線内で立っているカップルの女性に向かって歩いていき
「今、俺のこと笑ってましたよね」
「えっ?何?何?」
彼女は、かなり驚いた様子で
「どうした?」
彼氏も気味悪そうに一度悠太を見ると根津駅で降車していったことがある。
車内から荒川が見え、平日なので、土手には犬を散歩していたり、まばらである。
いつか優香に『3年B組金八先生』の撮影場所だとガイドすることがあるだろうか。
町屋駅で千代田線に乗り換え、西日暮里駅で山手線に乗車した。
山手線は、席は少し空いていたが息が詰まりそうなので、ドアの端のスペースに立つことにした。
大塚駅に着くと優香に、もうすぐ池袋だとメールした。
緊張で、震えはじめてしまい、吐き気もしてきたので、何度かえずいてしまった。