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駆け込み訴え~強迫神経症がつらくて、たまらないんです~

悠太は部屋の大掃除に取りかかっていた。


布団にはカビがはえており、優香が見たら、私への思いが一気に

さめてしまい、ようやく筆下ろしできる機会を逃してしまってはいけない。


まず、この問題をどうにかしなければならない。


初めて優香と食事に行くと決まったばかりで、付き合ってもいないが、どうにかして彼の部屋に来てもらう日ばかりを想定し準備を進めていた。


早速、悠太は栃木の祖父母と連絡をとった。


悠太の両親は長男の彼より次男と三男をかわいがっており、父方の祖父母と叔父の愛情のみで育った様なものだった。


「悠太、なんだ?元気でやってんのか?」


「なんとかやってるよ。そっちに余ってる布団ある?」


「探せばあっぺけども、持ってんだっぺ?」


「あるけどカビはえてっからさあ。ちょっと女来るから必要なんだよ。」


必要無いことまで言ってしまうのは悠太の性で、損ばかりしている。


「そうかあ。ばあちゃんに聞いてみっぺ。ばあちゃん。がはは。悠太がよ、女来っから布団送れだと。」


布団は、なんとかなりそうだ。


優香が部屋の本棚に飾ってある太宰治の写真を見たらどう思うだろうか。


本や雑誌、服などが足の踏み場もないほどちらかっている。


自己啓発本は彼女の目につく所に置いておきたくないし、とうてい着そうにもない服も、そのうち着るだろうと結局、押入れに入れる始末である。


彼には家具、小物の配置に、こだわりがあり、彼女を迎えるための掃除で神経が衰弱していた。


普段、誰がみても、だらしがない家事をしていたが、彼のこだわりは神経症特有のものだ。


例えば、バイ菌を嫌悪し、手がすりむける程洗い続けるが、手以外は、不潔だったりする。


買い物のために、部屋を出る時は、ガスの元栓、コンセント、鍵を何度も何度も確認するので、玄関に行ってから15分ぐらいは時間を費やさなければならなかった。


これが伝染したかどうかは不明だが、同じフロアの住人が施錠した後、玄関のノブをガチャガチャ何度もやっている所を、室内から覗きガラスを通して見たことがある。


客観的に見ると異常で、鼻で笑ってしまい、気づかれたことがある。


コンセントをさわったり、コンロの前で中腰になり元栓を何度も確認する。


ようやく玄関にたどり着いても、また振り出しに戻る。


やっと外に出て施錠しても、ノブをガチャガチャと何回もやって、ひどいときは駅から戻ることもあった。


アイスクリーム販売車のスピーカーから変わったメロディーが大音量でゆったりとしたテンポで流れていて、なんとなく葛飾区にしっくりとくる。


栃木出身の彼にとって、都内の中で堀切は住みやすいはずだが、常に襲いかかる強迫観念によって、どこにいても生きにくくなってしまうのだった。


スナックのママが開店前の店先に水をまいている。


彼には恐ろしくて、とてもできない。通行人に水をかけてないだろうかと、過去を振り返り憔悴しきることだろう。


優香とのデートが決まり気分は良いが、それまで自分が何か、事件をしでかさない様にと確認作業に一層力が入るのだった。


いつか、強迫観念をこえて他人に危害を加えることがあるのではないか。


悠太には自信が無かった。


アパート前の通りを中華料理屋や彼いきつけの弁当販売店を右に見て駅の方にまっすぐ歩く。


すれ違った通行人を振り返っては、唾をかけてないか、殴ったり蹴ったりしなかったか、確認しなければ気がすまなかった。


交番前の信号を渡ると、ようやくドラッグストアに着いた。


何かのひょうしに商品がバッグに入らない様、無意識にポケットに入れてしまい万引き犯になるのを防ぐために、集中して買い物しなければならない。


店内には親子連れがいて、3歳ぐらいの男の子は奇声を発して店内を駆け回っている。


嫌でもイライラしてしまう。蹴り飛ばしてやりたい。


まずいまずい。こんなこと考えて、子どもを蹴飛ばしてしまったら優香とのキスも何もかも、実現できなくなってしまう。


子どもと、その親を何度も何度も見て確認する。


すると、子の母親が彼を不審な目で見た。


何だ?なぜ不快そうな目で俺を見るんだ?ひょっとして、自分が子どもに何か危害を加えたとでもいうのか?


彼が親子をジロジロ見ていたことが原因であることは、この時は分からなかった。


部屋とトイレの芳香剤をなんとか買い、アパートに戻る途中、店員に万引きしたと疑われてるのではないか、ちゃんと支払ったよな、と先程彼が店でしたことを、はんすうするのだった。


すれ違いざまに、振り向き相手の反応を見るのも忘れない。


サーフボード店に石を投げる嫌なイメージがふと浮かぶと、立ち止まり、そんなことしなかったか、凝視した。


そうすると、いつも通り、マッチョな店員が彼をにらみつけるのだった。


部屋に戻ると、ドラッグストアで子どもに危害を加えたのではないかと、いてもたってもいられない不安に襲われた。


レシートを取り出し、迷うよりも先に電話してしまった。


「すみません。先程買い物した者です。変な電話の内容になってしまい申し訳ないんですが、実は私強迫神経症で通院していて、不安でたまらなくなり、電話してしまいました。さっき子どもが店内にいましたよね。自分何か危害を加えてしまってはいないでしょうか?おおごとになってましたか?」


「大丈夫ですよ。はーい。大丈夫ですからね。」


とりあえずは安心で、どっと疲れてしまった。


さて、棚にかざってる太宰治の写真はどうしようか。


しまった方が無難だな。


押入れを開けた。

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