チェリーブラッサム
優香との初めてのデートは、池袋サンシャイン水族館に決まった。
18年ぶりに優勝した2003年の阪神タイガースの勢いと共に、悠太の日常は、お祭り騒ぎの中にいる様だった。
「なんか、めちゃ雰囲気かわりましたね。つるんでるグループあるんで、仲間に入りませんか?」
野上に声をかけられたのが、きっかけで一気に男友達が4人できる。
野上達は同じ学科だが悠太の1学年下だった。
就活しないことをとやかく言わず、悠太のペースを尊重してくれた。
3年の彼らは、4年になれば就活に本腰をいれるはずで、そうなれば刺激し合う仲間になるだろう。
悠太がピエロの役回りだと知ることは、もう少し先のことだ。
好調な阪神のおかげで、今の悠太には、人を寄せ付ける明るさがあった。
C大学は他大学だが、たくさんの自動販売機に囲まれ、長椅子が多数の屋外の休憩スペースは、3年間ほぼ、御茶ノ水駅と大学の往復だった悠太にとって新鮮だった。
「こういう所あったの知らなかったでしょう?100円コーヒー1杯で、こんなに楽しめるんだよ。悠太くん、よくつるんでるの何人かいたよね?」
野上は、よく観察している。
「いたね。もはや旧友だよ。何回か飲みとか遊びに行ったけど、趣味が合わないから、話についてけなかったな。見た目もパッとしないの多かったでしょう?」
柳だけには心開いていたので、相談や下ネタなどのゲスな話ができた。
柳も旧友にしてしまうのは薄情である。
「旧友。そういえば、みんなキモかったよね。かっはっはっ。」
野上が言い、高山と声高らかに笑う。
杉山さんは静かに笑う。
高山は吉田栄作張りのイケメン。
杉山さんは30歳という年の為もあるが、落ち着き払っている。
口数少なく、くしゃっと、かわいく笑う。
癒し系と言われ、お兄さん的な存在である。
「旧友ちゃうやろ。」
大阪出身の久石は、小太りで、今田耕司を崇拝する吉本好きだ。声のはりだけは、たいしたもんで、そこだけは面白かった。
悠太は童貞であることをカミングアウトし、優香とのことも得意気に話した。
優香と野上たちは同学年で、彼女を知っていた。
「童貞。チェリーブラッサム!!かっはっはっ。」
「チェリーブラッサム!!かっはっはっ。」
野上と高山は声高らかに笑った。
杉山さんは静かに、はっはっはと笑う。
「大塚さんて積極的だね。そうは見えないけど。」
「それ、やれるよ」
「チェリーブラッサム!!かっはっはっ。」
野上と高山はチェリーブラッサムの響きが相当ツボだった様だ。
5人はC大学を後にし、御茶ノ水駅、聖橋口改札付近を歩いていた。
久石が唐突に奇声をあげる。
「あいつ、悠太ばっか話の中心だったから、やけ起こしてるんだよ。」
高野が笑って言う。
「車にひかれたら面白いのにね」
悠太が言うと他の3人も大笑いした。