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幸せのトランクス

ご覧頂き、ありがとうございます。

エンヤの曲が流れる中、暗い部屋で悠太は敷布団の上で、あぐらをかいていた。


優香はCDを彼の家に持ってきた。


好きなやつだから聴いてみて。


今、彼女はシャワーを浴びている。


敷布団の白いシーツに血がついていて、そのそばに彼女が脱いだ下着があった。


恐る恐る手にとると、赤黒く染まったシートが見える。


鼻に近づけてみると顔を背けざるをえなかった。


性の知識は少ない。


彼女は生理なのだろうということは理解できる。


男兄弟の中で育ったから、尚更詳しいことは分からなかった。


今日は最後まで「おこなった」わけではないので、まだ彼は童貞のままである。


なんとか段階を踏んだ達成感はある。


最中と今も部屋にこもったにおいに嫌悪感があった。


彼には女が排泄している動画をみる趣味がある。


目の前で「黄金」をされたら、果たして彼は耐えられるだろうか。


今でさえ性欲が萎えてしまう程の「香り」である。


「ごめんね。シーツ汚しちゃって」


彼女が浴室から出てきた。


浴室といってもバス・トイレ一緒である。


今いるのは悠太のアパートだ。


先日池袋でデートして以来、昨日まで彼女からの連絡が途絶えていた。


彼女は、あえて数日あけて彼に連絡した。


「私から連絡来なくて不安だったでしょ」


彼女は意地悪く口角を上げる。


ようやく彼女と連絡がとれると、彼は携帯で会話中に告白した。


初めて女体にありつけるかもしれない。


どうしてもこの機会を逃したくなかったからである。


「ドライヤー借りるね」


彼女は、恥ずかしい恥ずかしいと言いながら、体をバスタオルで覆い出てきた。


CMでエンヤの曲は聴いたことがある。


暗い室内で流れるそれは、雰囲気が良いと彼は感じた。


今日彼の部屋は新たに息を吹き返したのだ。


外から、アイスクリーム販売車のうたが、けたたましく聴こえてくる。


大学4年にしてようやく学生らしいことをやってのけたと思う。



一時期は精神科で処方された抗うつ剤の副作用のため、薬を飲む前より気分が落ち込み、体が重く、一挙手一投足が億劫で、ベッドに横になる日々が続くことがあった。


食欲がなく、吐き気もあり、何度も何度もえずく。


しっかり勃起しなくなった。


無理矢理、射精を試みるも、できない。


数週間、ユニクロのフリース上下のパジャマを着っぱなしで下着もとりかえないでいた。


「いんのう」と重なる太ももの内側がかゆく、かいていた。


重い体を起こし患部を見てみると、湿疹ができていた。


ただごとでないことは分かる。


後日、薬局で、インキンタムシへのぬり薬を買った。


15年経った今でも、かきむしった跡がある。


トランクスを脱ぎ、石けんをつけて洗い、もみだす。


それを1つだけベランダに干した。


ズボンの股間の部分のにおいをかいでみる。


路上で生活している「レゲエのおじさん」と同じにおいがした。


さすがに、これをはくのはよろしくない。


下着のかえが無いので、仕方なくジーンズをそのままはいた。


たまった洗濯物は山積みとなっている。


ずいぶん寝続けた。


テレビから小倉さんの声が聞こえる。


午前8時は過ぎているのだろう。


力いっぱい起き上がり、ベランダに出ると、2階にある彼の部屋を見上げて大笑いしている中年の男2人と目が合った。


1人は道路を挟んだ真向かいの家の男である。


彼が1枚のトランクスを取り込み部屋に戻る一部始終を2人の男は見ていた。


カーテンを閉めると笑い声が一層大きくなる。


幸せの黄色いハンカチは分かるが、トランクス1枚だけ干してある光景は、異様で滑稽である。


部屋の中で羞恥心と笑われた事への怒りで発狂したが、ダルさが勝り、また眠ってしまった。



ドライヤーをしている彼女の横顔を見る。


少しとんがった唇。


元々小柄なので、少女の様だ。


「恥ずかしい」


彼の視線に気づいた。

ご覧頂き、ありがとうございました。

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