一緒にいたいけど、帰りたい
サンシャイン展望台から地上に戻ると、悠太は、酷い睡魔に襲われた。
サンシャイン通りからそれて、どこをどう歩いているのだろうか。
優香の言うラーメン店に向かう。
「どうしたの?」
「大丈夫。大丈夫」
眠気で、彼女の話す内容が理解できない程で、あー、だの、うーんと、適当に相槌をうっていた。
「疲れちゃったかな」
ギャル何人かが前から歩いてくる。
彼女達の様に、早口にコロコロと言葉を転がす様なイントネーションは東北出身の彼にとって、ただただ耳障りで、不愉快だった。
田舎者の彼にとって「ヤンキー」としか表現できないが、「ギャル」と言った方が的確なのか、池袋でも多く目についた。
彼女達に、唾でも痰でも吐きつけて欲しいと、相当眠くても望んでしまう性癖の彼である。
昨晩から一睡もせずに、今夜優香が彼の部屋に来ることを想定した大掃除を、途中、日課の快楽タイムも設けながらしたので、今になって半端ない眠さである。
早く帰って、展望台で生まれて初めてキスをした余韻に一人で浸りたかった。
「ごめんね。歩かせちゃって」
彼は料金先払いの発券機の操作に戸惑い、彼女が手際良くボタンを押してくれた。
「光麺って、他の所にも店舗あって、私好きなんだ」
店内には女性2人組もいくつかいる。
ラーメンの量は少なめで、満腹感が吐き気に変わることを異常に恐れる彼にとって都合が良かった。
「もっと食べたいと思うぐらいの量が良い感じだよね」
ラーメンをすすり、彼は少し、意識を取り戻す。
「上京して初めて食べたラーメンは、ラーメン二郎」
「私、二郎好きだよ。山盛りのもやし、すごいよね」
「東京のラーメンって、あんな感じかって衝撃だったよ」
しかし、やはり眠気は強烈で、そのうち、箸を持ちながら、こっくりしてしまった。
彼女との会話は、更にまともにできなくなった。
「大丈夫?もう出ようか」
「ほんと、ごめん」
表に出ると解放された気持ちで、風も心地良い。
JR東口まで来ると多くの若者が行き交い、男女の高笑いが、うっとうしかった。
明日学校に行くかどうかと、つまらないことを彼女に聞いたりしたが、彼女の反応は心なしか、冷たい様だった。
いけふくろう像の前には大学生ぐらいの若者たちがたむろしている。
よく階段下付近に待ち合わせスポットとなる像を置くものだ。
先程、初めてのキスを経験済みの彼は、今日待ち合わせをした際の自分とは違い、カップルが目に入っても、ひけめを感じないが、彼女の素っ気ない態度に急に不安を感じ始める。
改札に入り、笑顔で私はこっちだからと、6番線へ階段をのぼっていったが、その後姿は、なんとなく冷たい。
彼は7番線の階段をのぼり、向かい側のホームに彼女を探したが、新宿渋谷方面の山手線が入線してきて、見つけられなかった。
彼も山手線に乗り込み、西日暮里に着く間に、車内で彼女にメールをうったが、いつもはすぐに来る返信がなかった。
何度も何度もセンターに問い合わせるが、メールは確認できず、不安に襲われ、返事を求めるメールを何通か送ってしまう。
悪い予感は当たっていたのだろうか。
彼はいても立っても、いられなくなる。