この酸っぱい匂い、バンザイ。
展望台に着くと、夜景が綺麗に見えた。
水族館の様に子どもの姿は無く、周りはカップルが多かった。
この様なムードは下にいる時から想像できそうなものだが、悠太は下心無く展望台のチケットを事前購入していた。
初めての経験に向けては、彼女が家に来てもらうことを目標にしているので、暗くなった展望台に誘うことで、どう受け取られるかなど考えに及ばなかった。
「わぁ、すごいキレイだよ」
彼女が彼を手すりの所に促し、身を乗り出す様に眺めた。
「あれお台場の観覧車?葛西臨海公園かな?」
彼女が指差し、肩が触れ合う。
彼女の日焼け止めクリームや、ハンドクリームの甘い香りに、汗の匂いも混じるのか、心地いい。
「ん?ん?」
彼女が微笑み、彼の顔を覗き込む様に見た。
彼はどうしたらいいか分からず、黙ってしまった。
「望遠鏡でみてみようか?」
沈黙に耐えきれず、ジーンズメイトで買ったばかりの二つ折りの財布から小銭を取り出そうとする。
彼女は首に横に振ると彼を後ろのベンチに誘った。
「ん?ん?ふふふっ」
しばらく沈黙が続き、彼女が鼻で笑う。
「ん?ん?」
彼女が首をかしげる。
彼が夜景をみて、必死に何か言葉を探していると、頬にキスしてくれた。
彼女から積極的にしてくれたおかげで、彼は抑えられてたものから解放され、自らキスし返して、何か肩の荷が下りた気持がする。
「事故だ」
彼女はそう言いながら、彼の口に直接絡ませ、彼もされるがままになった。
初めてのキスは甘酸っぱいと言うが、彼女の汗の匂いか何か、確かに酸っぱく、また孤独な生活に戻ったとしても、毎晩のおかずとして使えるだろう。
この酸っぱい匂い、バンザイ
もうこれで満足な気がした
彼が好きな匂い
周りのカップルに引け目を感じなくなった彼は、急に眉間に力を入れ、目をキリッとさせてみるのだった。
こうなると時間が経つのは早い。
「お腹減ったね。そろそろ行かない?ラーメンおいしいとこあるから、そこでもいい?」
現実に戻され、さっきの出来事が信じられないといった表情を彼女に見せた。
彼女の前でも強がる必要は無さそうだ。
手をつなぎ、エレベーターに向かう。
地上におりると強烈な眠気が彼を襲った。