白市葵
ボクと白石さんの関係を語るには少し昔へ遡る。
ボクの家族は物語りの冒頭にも言ったようになかなか手厳しい一家だ。
家にはボクとボクの祖父母と両親そして兄貴の6人で暮らしている。
祖父母のまた祖父母の代から暮らしている家はかなり古い歴史を物語っており、いつ台風やら何やらで飛ばされてもおかしくないぐらいのボロ屋敷だった。
そんなボロ屋敷ではあるが、屋敷と言うだけあり敷地面積も異様に大きい。
庭の面積だけでテーマパークが作れてしまうのでは思うほど大きい。
聞くところによるとボクの先祖さまはこの町の歴史に名高い人物のようで町のあちらこちらに先祖さまの石碑が置かれている。
そのためボクは町の中ではお坊っちゃま扱いされているが、実際の暮しはお伽噺の王子さまとはかけ離れた生活を送っている。
我が家の家訓は質素倹約これに限る。
贅沢は敵だと教えられ育ってきた。
人と違った生活を送らずただただまともに生きる事、それが幸せに暮らせる一歩だと。
まともに生きない人間には幸せ訪れない。
人生のレールから外れてしまった兄貴がそのいい例だと。
話が脱線してしまった。
まぁ、そんな訳で町のほとんどの人が白石さんの事を知っているようにボクも有名人であった。
そんな有名人同士のボクたちが初めて顔を合わせたのは去年の運動会の時だった。
前日に大雪に見舞われたあの伝説の運動会の日。
運動会日和の天気の中始まった運動会も終盤に近づき、残るはクラス対抗リレーだけとなっていた。
ボクは頭はいいが運動神経はからっきしなので、リレー選手に選ばれる事などある訳無かったので選手達の応援をしなければならなかったが。
クラスが勝とうが負けようがボクには何のメリットもデメリットも無いので、あんな陽射したっぷりの中で応援して熱中症になったりして来週のテストに差し支えると良くないと思ったので、体育館裏の日陰で国語の教科書でも読んでいようと思ったのだ。
生い茂った草に覆われたその場所はなかなかの隠れ家であった。
わざわざこんな虫の多そうな場所に自分から足を運んで来る人間なんてほとんどいない。
この場所には誰が何のために作ったのか分からないが、大きな石の置物があった。
何の動物か分からない。
狸にも見えるが狸より間抜けじゃない。
熊か?とも思ったが熊のような勇ましさが足りない。
そんな謎の生物の石像は置いといて。
その石像の前にベンチがあり、ボクはそのベンチが大好きだった。
いつもは誰もいないベンチに今日は先客がいた。
彼女の事はずっと前から知っていたはずなのに、こんな間近で見るのは初めての事だった。
遠くで聞こえてた応援の声やテンポのいい応援歌が急に聞こえなくなった。
何も聞こえなくなったボクの耳に聞こえるのは自分の胸の鼓動だけだった。
肩までの黒髪を耳にかけて本を読みふけているだけなのに、聖女のように美しい彼女はボクに気付くと、
「サボりかー、3年1組飯塚ヨシキ!」
白石葵はそう小さく頬笑った。