失踪
ボク等の住むこの町は昔から奇妙な出来事が多くあった。
例えば、駄菓子屋で大量に買ったはずのお菓子が家に帰る前に半分になっていたり、運動会の前日に季節外れの大雪が降ったくせに翌日には何事も無いような快晴に戻っていたり…。
そして、つい数ヵ月も常識では考えられない謎の失踪事件が起こったばかりだ。
小学六年生の女の子が学校からの帰り道突然姿を消したのだ。
文字通り突然消えてしまったのだ。
あの日の事は今でも鮮明に覚えている。
ボクたちの学校は毎週月曜日は集団下校と決まっており、その日もボクたちは決まった班のとこに集まり帰り仕度を始めた。
「ヨシキくん、この間借りた本もう少し借りててもいいかな?」
タイガが鼻をほじくりながらそんな事言ってくる物だから本を貸した事を後悔してしまった。
「まだ返さなくてもいいけど、本を読む時はちゃんと手を洗ってから読んでよね!」
ボクがそう言うとタイガはズボンで指を拭きながらバツが悪そうな顔をしてみせた。
「みんな揃った?」
うちの班の班長を務める六年生の白石葵さんが点呼を取り始めたので、ボク達もきちんと並んだ。
白石葵さんはほっそりとした美人顔で、男子に絶大な人気がある。
容姿がいいだけで無く頭も良くて一年に数回行われる全国試験でも成績上位に名前を連ねているほどだ。
運動神経も抜群で走り高跳びの結果は日本の小学生の中でトップの実力らしい。
そんなこんなで白石さん有名人であり、彼女の事を知らない人は学校内…いや、この町で知らない人はいないのでは無いかと思うほど人気者だった。
「1、2、3、4、5と三バカトリオと、全員いるわね!」
白石さんの言う三バカトリオとはボクとタイガとコウヤの三人である。
「てか、白石さんまた数数え間違えてるよ」
ボク達の班は全員で7人なのに、白石さんは毎回毎回8まで数える。
ボクはしっかりものの白石さんよりこんな風にどこか抜けてる白石さんの方が好きだ。
彼女はたまに奇想天外な話をしたりする。
自分には特別な力があり超能力が使えるとか、宇宙人は間違いなく存在してすぐ側まで来てるとか。
そんな話をする白石さんが好きだ。
「あ…。私またやっちゃった」
てへと言うように頭を叩き、
「さぁ、元気に帰りましょう」
右手を空に掲げて言葉を発した白石さんのすぐ後ろには一年生の女の子二人が前後に並んでいて、その後ろに二年生の男の子、そしてコウヤ、タイガ、ボクと並び、最後に副班長の六年生の三枝正史くんがいた。
ボクたちの班は他の班よりも人数が少し多かったけど、白石さんが班長なら大丈夫だと親や先生達が認めていたのだろう。
いつものようにボク達はその日も今日学校で合った事や帰ってから何するかを話ながら帰っていた。
「それでさー、イテ」
コウヤが急に前のめりになり立ち止まるから後ろに続いていたボク達も変な止まり方になった。ボクなんて副班長に足を踏まれてしまった。
「何だ、どうした?」
はっと顔を上げると、白石さんが足を大きく開けたまま空を仰いでいたのだ。
『どうしたどうした』と班のみんながガヤガヤと騒ぎ始めた。
「白石さん?」
「来ないで、ヨシキくん」
駆け寄ろうとしボクを鋭い目で制止し、こう続けた。
「キミはここにいて」
次の瞬間、白石さんの体は恍惚に包まれパッと消えたのだ。
それはボクたちの目の前で起こった事件だった。