小さな本読み
更新止まってて申し訳ないです、まだ続きますのでよければ読んでってください
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あれからどれだけの時間が過ぎただろうか、少年はただひたすらに本を読み続けていた。
読み始めた時はよくわからなかったが、それぞれの内容を纏めながら読んでいくと、精霊についてかなり詳しい情報が得られた。
今まで読んできた同じような文章は全く出てくることはなく、代わりに今まで全く出てこなかった文章が内容の全てを埋めていた。
1番驚いたのは「精霊を見ることができる人は限られていて、多くの人は見ることが出来ない」ことだった。
心の奥底ではみんなが見れると思ってたのに...すこし夢を打ち砕かれた気分だ。
きっと、本当に精霊を見ることが出来た人がその事を喋っても誰も信じないだろう。
その結果があの微妙に内容が違った本達だろう。
精霊と呼ばれる存在がおとぎ話の登場人物になるには、そう時間はかからなかったはずだ、事実を言っただけの人が批判を浴びるのも。
何故か胸がきゅっと締まるような感覚があった、その理由はぼんやりと浮かんだが、どうしても考える気になれなかった。
「そろそろ時間かな...また明日にでも読もう...」
リッツはゆらりと立ち上がると、自分には大き過ぎる本を抱えて部屋を後にした。
「あら、本は読めたかしら?」
司書さんの声だ。
「ちょっとだけ...」
本を司書さんに渡しながら喋るが、少し自信なさげな声が出てしまう。
しかし、返って来た言葉は意外なものだった。
「ちょっとでも十分よ、本当に凄いのね」
「あの本は読める人がなかなか居ないから...」
確かに難しかったけどそこまでかな...?
「はぁ...誰にも教えられずに文字が読めてる時点でかなり凄いと思うわよ?」
疑問が顔に出ていたのだろう、司書さんがため息混じりに答えてくれる。
「それとも、君のご両親が専門家かなにかで、文字の読み書きを教えてもらったのかしら?」
やれやれといった表情で司書が続ける。
「読み聞かせをよくしてもらったくらい...です」
両親との思い出を振り返る。
手を繋いで一緒に歩いたこと。
本を読んでもらったり、一緒に読んだこと。
僕がビンをひっくり返しそうになってお母さんが慌てて止めに来たこと。
それと...
「あれ、おーい?」
「大丈夫?」
いつの間にか司書さんが僕の目の前に来ていた。
「え?あ、あ...大丈夫です」
しゃがんで僕の顔を覗き込んでいる。
「嘘つけ、きっと疲れてるのよ、今日は帰ってゆっくり休みな?」
そう言いながら腰を上げると、にっこり笑いながら僕の頭をぽんぽんしてくれた。
「...はい、そうします」
ほのかに残る熱を頭に感じつつ、ゆらゆらと出口へ向かう。
「気を付けて帰るのよー」
おぼつかない足取りで図書館を後にするリッツを心配そうな顔で見送る。
やがてリッツが無事に外に出たのを確認して腰を降ろし、一息つくも、その休息はすぐに終わりを迎えた。
「この前返し忘れた本のこと、言いそびれたわ...多分大丈夫だけど期限が近付いてるし次は言わなきゃね...」
小さな本読みが出ていった後の図書館のカウンターで、司書は己の失敗を恥じていた...